第27章 翔ぶ
「最初はね、何を言ってるんだろう? と思った。知り合って数日だし、意味がわからないし、きっと冗談なんだろうって。でもね、レイさんの顔を見たら冗談なんかじゃない、真剣なんだってわかったの」
「うん、そうだろうね。レイさんは本気だよ」
うなずいてくれるペトラ。
「だから私も真剣に返事をしたわ。調査兵をやめることも結婚も、今は到底考えられないって。だってそうだよね? ペトラは考えたことある?」
「ないね、全然。そりゃいつかは… とか思わないでもないけど、毎日訓練だし壁外調査があるんだもん。それどころじゃないよ、今は」
「そうでしょう、そうなのよ…。だから私もそのことを伝えて結婚できないって…。そうしたらレイさんがすごく辛そうな顔をして、オレのことが嫌いかって訊いてくるから…」
レイの翡翠の瞳が苦しそうに翳りをまとう様子が、ありありと浮かんだ。
「嫌いじゃないって答えたよ。だって嫌いじゃないんだし…」
「わかるわかる! 嫌いじゃないし、どっちかっていえば好きだよね、レイさんのこと。でもさ、まだ出会って間もないし、マヤは兵長のことが好きなんだしね!」
「それよ…!」
ペトラが自身の気持ちを完全に理解してくれていることは非常にありがたい。
「レイさんはオレのことが嫌いかって訊いてきたかと思えば、好きな男がいるのか? なんて言ってくるの。ちょうど兵長のことを想っていたときに訊かれたから、レイさん、私の気持ちが見えるのじゃないかって焦っちゃった」
「それはヤバいね」
「うん…。でね、もっとびっくりしたのはね、好きな人がいるなんてレイさんにはそう簡単には言えないでしょ? だって友達でもないのに恋バナするみたいに話せないよ… ね?」
「そんなの当たり前だよ。マヤがレイさんに “私… 実は兵長が好きなんです” とか暴露するなんて考えられない」
同調してくれるペトラの言葉に、マヤの胸は嬉しい気持ちでいっぱいになってくる。
「だよね…、良かった…。だからね “好きな人はいない” って答えたんだ。そうしたらレイさん… しばらく黙ってたんだけど、兵長のことをどう想うかって…」
「えっ!」
ピンポイントで確実に攻めてくるレイに、ペトラは驚いた。
……さすがマヤに本気なだけあって、そこんとこ… わかっちゃうんだ…。