第27章 翔ぶ
「さぁマヤ、話してもらうわよ!」
ここはマヤのために用意された客室 “ザ・ブライド”。時刻はもうすぐ時計の針がてっぺんを指すころ。
ペトラはベッドにうつぶせに寝転がって、頬杖をついている。
今から一時間以上も前、“ファビュラス” でオルオの帰りを待っていたマヤとペトラは扉がノックされたとき、当然オルオだと思った。
しかしそれは、執事長のセバスチャンだった。
伝達してきた内容は…。
その一、オルオはバルネフェルト公爵のいるバルコニー貴賓席にいて、戻ってこないこと。
その二、リヴァイの指示でペトラとマヤの二人はもう休めということ。
セバスチャンが去ったのちに駆けつけてきたメイドたちによって、二人はドレスとジュエリーと靴をあっという間に脱がされて兵服に着替えさせられた。そして三階にある客室に案内される。
前回に泊まった部屋同様に、シャワールームもトイレットルームも備わっている。前回は大浴場を利用したが、今回はペトラの強い要望で、それぞれ部屋のシャワールームで済ませることにした。その理由はもちろん “一刻も早くマヤの話を聞きたい” からである。
かくして手早くシャワーを済ませ、バルネフェルト家が用意してくれていたシルクのネグリジェを着たペトラは、早速マヤの部屋の天蓋付きベッドに寝転がっているのだ。
「うん…、何から話したらいいかな…。あっ!」
マヤは話を始める前に、気になっていることを訊く。
「話す前に… 気になってるんだけど。ペトラはどうしてレイさんの気持ちを知ったの?」
「あぁ、それね。ミュージアムでレイさんがピアノを弾いてくれたじゃない?」
「うん。上手だったよね」
「あの曲名、憶えてる?」
「えっと確か…、王立劇場で人気のバレエの演目 “シンデレラ” の中の… “舞踏会の夜” だったかな?」
「そうそう、そのシンデレラよ」
ペトラは意味ありげに笑ったが、マヤには何がなんだかさっぱりだ。
「……どういうこと? シンデレラがどうかしたの?」