第27章 翔ぶ
ナイル・ドークはリヴァイによく “薄ら髭” と揶揄されているとおりの、少々くたびれた見かけの男だ。だが憲兵団師団長は伊達ではない。エルヴィン・スミスと訓練兵時代の同期である彼は、ともに調査兵団を目指したことのある熱いハートを持った真の漢だ。
そして基本的に部下に優しい。
オルオは直属の部下でもなんでもないが、根が優しい彼は子犬のような瞳で自身を見つめてくる調査兵に親切に声をかけてやる。
「興味があるなら見学すればいいだろう。俺は最後までつきあう気だから、一緒にどうだ?」
「いいんすか?」
「もちろんさ。リヴァイも別にいいだろう?」
「……勝手にしろ。そもそも俺は別に勝負してねぇが」
「………?」
勝負をしていないと言うリヴァイ。オルオは理解が追いつかない。
「ほっとけ。リヴァイのやつ、何が理由か知らないが、さっきからへそを曲げてるのさ」
「……では後学のためにも見学させてもらいますけど、部屋でペトラとマヤが俺の帰りを待ってます。兵長、どうしたら…? 呼んできたらいいっすか?」
ペトラとマヤの名が出た途端にリヴァイのこめかみがピクピクと動いた。
「もう夜も遅い。あいつらには休めと伝えろ」
「了解です」
リヴァイの命令どおりにしようと立ち上がったオルオだったが、すぐに公爵に止められた。
「オルオ君が行くことはない、ここにいたまえ。ペトラ君とマヤ君のところへは、セバスチャンを行かせよう」
そうして公爵はセバスチャンを呼ぶと、ペトラとマヤをあらかじめ用意してある客室に案内するように命じた。
セバスチャンが螺旋階段を下りていくと、公爵はパンパンと両手を叩いた。
「さぁ、勝負を再開しようか! オルオ君も見てくれてることだしピッチを上げていこう。今からダブルだ!」
そう叫ぶと公爵は、テキーラをショットグラス二個になみなみと注ぐと、くいくいっと一気に飲み干す。
それを見てリヴァイは、黙って同じテキーラをダブルであおった。
……あんな強い酒を薄めずに一気に二杯も…!
これから目の前で繰り広げられるであろうバルネフェルト公爵とリヴァイ兵長の勝負を、固唾を呑んで見守るオルオの夜が始まった。