第27章 翔ぶ
「……そうか」
リヴァイは手許のショットグラスをもてあそびながら、つぶやいた。
「はい」
……と答えたのはいいものの、このあとどうしたらいいんだ?
テーブルの上の尋常ではない種類と数の酒瓶、気だるそうなリヴァイ兵長、機嫌の良さそうなバルネフェルト公爵。
ひどく調和していなくて、戸惑うばかり。
「オルオ君」
「はい!」
場の雰囲気に気を取られていたオルオは、公爵に名を呼ばれて飛び上がった。
「なんでしょう!?」
「今ね、リヴァイ君と飲みくらべをしているんだ」
「飲みくらべ… っすか?」
「ここにある酒…」
公爵は両腕を広げた。つられてオルオはテーブルの端から端まで占拠している酒瓶に目をやる。
「すべて今から私とリヴァイ君で空にするんだ。途中で音を上げた方が負けの真剣勝負だよ」
「はぁ…」
曖昧な笑みを浮かべて相槌を打ちながらオルオは心の内でこう思っていた。
……勝負もなにも “酒豪四天王” の兵長が負ける訳ないよな…。
ところがその考えを覆す公爵の次の言葉。
「真剣勝負なんだが、私に分があるかな? なんせ私はエルヴィン君にも過去に勝ったことがあるから。きっとリヴァイ君も負かしてしまうんじゃないかな?」
「えっ!」
団長に勝ったって?
……嘘だろ?
エルヴィン団長は “酒豪四天王“ なんだぞ?
団長とミケさん、ハンジさん、そして兵長。我が調査兵団の誇る “酒豪四天王“。エルドさんとグンタさんから聞いただけでその実態をこの目で見た訳じゃねぇけど…。でも四人が酒にめっぽう強いことは間違いないはず。
その団長に勝った? そして今から兵長も負かす?
そんなことは信じられないと目を丸くしているオルオを公爵は誘う。
「どうだね、オルオ君。君もナイル君と一緒に勝負を見届けないかね?」
「はい…」
公爵の話が本当なら見てみたい。
“酒豪四天王“ の団長や兵長に飲み勝つなんて、ありえるのか?
「でも…」
そんな大人の酒の真剣勝負なんてものを、自分が立ち会っていいものなのかどうかわからない。
オルオは口ごもりながら隣のナイルを、救いを求める子犬のような目をして見上げた。