第27章 翔ぶ
バルネフェルト公爵は高らかに飲みくらべの開始を宣言すると、ルールの説明を始めた。
「なぁにルールは簡単だ。一杯ずつ交互に飲む…、このグラスでね」
嬉しそうに1オンス(30ml)のショットグラスを掲げる。質の良いクリスタルガラスのそれには、繊細な薔薇模様のカットがほどこされており、シャンデリアの光を反射してキラリと輝いた。
「とにかく飲む! どちらかが降参するか、ぶっ倒れるまで。飲む酒はこのテーブルの上にあるものなら自由に選んでいい。どれも口から火を噴くレベルの強い酒だ。ウォッカやテキーラとひとくちに言っても、原料の産地や製法によってアルコール度数も変わってくるからね。そのなかでも特に高いラベルばかり集めてあるから、どれを飲んでも勝負に差はつかないからね。どうせなら自分の好みの酒で戦いたいだろう?」
ウィンクが得意らしい公爵は、リヴァイに向かって茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
「あぁ、そうだ。勝負の前に伝えておきたいことがある。私はね、エルヴィン君と飲みくらべをして勝ったことがあるからね。リヴァイ君は、どれくらい勝負についてこられるかな?」
自信たっぷりの様子のバルネフェルト公爵。
リヴァイの隣に座っているナイルが気遣わしげにささやいた。
「おい、本当にやるのか? エルヴィンを負かしたとなると、かなりのつわものだぞ…」
「……知るか」
公爵との勝負など、はなからどうでもいいリヴァイは気だるそうにつぶやいた。
「……どうなっても俺は知らないからな。忠告はしたぞ」
心配そうなナイルをよそに、リヴァイは内心でこう考えていた。
……エルヴィンが酒で負けた?
そんなことがあるか。
どうせあいつのことだから、兵団のために適当なところで降参するふりでもしたんだろうよ、馬鹿馬鹿しい。
……まだまだ余裕なくせして “私の負けです、公爵” と大げさに両手でも挙げてクソ猿芝居をやったんだろうな。
だが俺は猿芝居はしねぇ。
「……ではリヴァイ君、私からいくよ?」
公爵はいきなり、アルコール度数が55%以上もある12年熟成もののウイスキーをクイッと飲み干した。
「さぁ、君の番だ」
うながされてリヴァイも、同じ度数のウォッカをあおった。
……勝負は心底どうでもいいが、今夜はとことん飲みてぇ気分だからな…。