第27章 翔ぶ
ふらふらと広間へ戻ったリヴァイをバルコニー貴賓席にいるバルネフェルト公爵は、目ざとく見つけた。
「リヴァイ君!」
立ち上がってニコニコと手招きしている。
ちょうど酒をあおりたかったリヴァイは黙って螺旋階段を上った。
「ペトラ君はどうだったかね?」
ドカッとソファに座ったリヴァイに公爵は訊く。
「……大丈夫だった」
「それは良かった。ではそのうち戻ってくるのかな? 三人とも」
……知るかよ。
ペトラとオルオが広間に戻ってくるかなんか知らねぇ。ましてやレイモンド卿と人けのないテラスで二人きりでいるマヤのことなんかもっとわからねぇ。
不機嫌そうな…、いや不機嫌そのものの顔をして押し黙っているリヴァイを見て、公爵は少し不思議そうな顔をした。リヴァイの鋭いまなざしの先はテーブルの上の空のグラス。
「あぁっ!」
公爵はパッと顔を明るくする。
「リヴァイ君、すまない! 酒がないね!」
お気に入りのリヴァイのしかめ面の原因を酒と勝手に決めつけて、にこやかに公爵は笑う。
「何を飲むかね? ウイスキーの水割りかね?」
「……いや、もっと強い酒を」
「おっ、リヴァイ君もいける口かね? 実はこう見えて私も強い方なんでね。飲みくらべをしようじゃないか。どうだい?」
「……あぁ」
公爵と酒で勝負する気などさらさらないが、ちょうど酒でも飲まないとやってられない気分に襲われているリヴァイは同意した。
「やるかい? それは嬉しいな! ナイル君はどうだい?」
「いえ、結構です」
「そうかい、それは残念。ではリヴァイ君と私の飲みっぷりを見ていてくれるね?」
「もちろんです」
ナイルの答えに満足そうにうなずくと早速公爵は給仕を呼び、ウォッカやテキーラ、ウイスキーやジン、バーボンにブランデーにラム…、ありとあらゆる強い酒をすべてストレートで持ってくるように命じた。
「今からリヴァイ君と夜を徹して飲み明かすのかと思うと、ワクワクが止まらないよ」
仕事に忠実な給仕によって、あっという間に目の前のテーブルに山のようにならべられた強い酒の数々に、子供みたいにはしゃぐ公爵。
「では、始めよう!」