第27章 翔ぶ
………!
息が止まる、鼓動までもが止まった気がした。
……俺の話をしているのか。
“リヴァイ兵士長のことはなんとも想っていない、男として見ていないってことだな?” ……だと?
マヤは…、マヤはどう答える…?
無論リヴァイが期待するマヤの答えは、NOだ。
だが聞こえてきたのは…。
「ええ。兵長は上司ですから」
明確なYES。
なんの迷いもない澄みきった声。
俺のいるところからその姿は見えねぇが、きっとマヤは落ち着いて、レイモンド卿をしっかりと見つめ返しているに違いねぇ。
……そうなのか…、マヤ?
互いに好きだと言い合った訳ではないが、壁外調査のあとに執務を手伝ってくれるようになり、夕食を共に取り、街に出かけ…。一方的に寄せている好意ではないと、どこかで信じたかった。
突然予告もなく自身に対するマヤの… “上司だからなんとも想っていない。男として見ていない” という気持ちを知ってしまい、少なからずショックを受けて青ざめているリヴァイを、さらにどん底に落とす言葉が聞こえてきた。
「……それ以上でも以下でもありません」
……クッ。
どんな怪力の大男が力いっぱい押したところで、びくともしないリヴァイなのに。
今まさに、よろめきそうになって。
だが、それを阻止する声が。
「ミャオ!」
………!
全く予想もしなかった猫の鳴き声でリヴァイは我に返り、体勢を立て直した。
「ミャオ! ミャオン!」
……なぜ猫が…?
さっぱり意味がわからねぇ。
「……どうしちゃったんでしょうね?」
「さぁ…。アレキサンドラ、どうした? ネズミでもいんのか?」
………!
リヴァイはレイが扉へ来るより早く、そこを立ち去った。
……クソが…!
まるで逃げるように退散したおのれが忌々しい。
マヤが俺のことを上司だからなんとも想っていないと、あろうことかレイモンド卿に伝えているところを立ち聞きしたうえに、得体の知れねぇ猫なんぞの鳴き声に追われて逃げ帰るように去るなんて。
“ファビュラス” の前まで戻ってきたリヴァイは一瞬立ち止まったが、そのまま部屋に入ることはなく広間へ向かった。
……今は何も考えたくねぇ。