第27章 翔ぶ
そうやって屋敷をぐるりと一周し、次は二階へ上がってやる。そしてまた一周、駄目ならさらに上へ。
……マヤを見つけるまで歩きつづけてやる。
リヴァイは頭の中でそう決めて角を曲がってからも長い、ひたすら長い廊下を進んでいく。
……クソ馬鹿でけぇ屋敷。
部屋がいくつかあるが、その扉はいずれも閉まっている。
……廊下は気が遠くなるほど長ぇが、どうやら収穫はなさそうだな…。だがとりあえずは屋敷内をくまなく捜す一歩として、廊下を一周して…。
リヴァイは歩きながらあれこれと考えていたが、ふと本能的に足が止まった。
……人の気配がする。
歩みを止め、耳をすませば、かすかに流れてくるささやき声。低い声とそれより高い小さな声。何を話しているかまではわからないが、明らかに男女の声だ。
慎重に廊下を進めば、さあっと夜風がリヴァイの顔を撫でる。爽やかな初夏の夜風は男女の声を鮮明に運んだ。
……この声はマヤ!
さきほどは誰の声かまでは聞き取れなかったが、今はわかる。
少し高めの、でも甘ったるくもない凜とした涼やかな声。
………?
まだ何を話しているかははっきりとは聞こえないが、マヤの声がいつもより大きくて甲高い。
……なんだ? 何を興奮している、マヤ。
リヴァイはマヤの声の様子が気になって、一気に近づいた。声が漏れてくる場所へ。
そこには廊下から庭園を見渡せるテラスへつづく、大きなガラスの扉があった。
半開きになっている。
……誰と一緒にいやがる。
リヴァイはその答えがわかっていたが、それでも扉に近づいて確かめるまでは信じたくなかった。
「わかったわかった。すまなかったな」
もうはっきりと会話が聞こえる。
何やら興奮しているマヤを、レイがなだめている。
……レイモンド卿…!
クソが! いつの間にマヤと二人きりになりやがった。それにあのいつも落ち着いていて穏やかなマヤが怒っている…?
今すぐ出ていって、マヤを連れ出さねぇと。
リヴァイが半開きのテラスの扉から中に入ろうとしたとき、それは聞こえてきた。
「あらためて訊くが、リヴァイ兵士長のことはなんとも想っていない、男として見ていないってことだな?」