第27章 翔ぶ
「もうすっかり大丈夫です。すみませんでした!」
訊かれたペトラは慌てて頭を下げた。
「いや、酒を飲んだあとにダンスをさせた責任は俺にある。すまなかったな」
「そんな…! 本当にもうなんともないんで。あっ!」
ペトラは何かを思い出した様子だ。
「私が寝てるあいだ、マヤが手を握っていてくれたみたいで…。それがすごく心地良くて、ほらもうすっかり元気です!」
リヴァイに向かって笑顔で力こぶを作る仕草までしてみせた。
その笑顔は親友のマヤの優しさへの愛に満ちあふれていたが、次のリヴァイの言葉で鬼の形相に一変する。
「手を握っていたのはマヤじゃねぇ、オルオだ」
「えっ!」
怖い顔をしてオルオを振り向くと。
「本当なの、オルオ!?」
「やっ、その…、だってよ…」
うまい言い訳も見つからず、しどろもどろのオルオにペトラはさらに怒る。
「どさくさに紛れて変なことしないでよね! この馬鹿!」
馬鹿とまで言われてオルオも顔を真っ赤にしてやり返した。
「馬鹿とはなんだよ! 俺はお前を心配して…!」
「心配したら手を握るんだ。へ~!」
思いきり嫌味っぽい声を出したペトラだったが、ふと気づく。
「っていうかマヤはどこ?」
自身の手を握ってくれていたと遠い意識の彼方で思っていたマヤが見当たらない。
「俺が来たときにはいなかったが」
リヴァイの発言のあとに、オルオが答えた。
「マヤは落とした耳飾りを捜しに行きました」
「落とした? あの耳飾りを!?」
ペトラは大変だとばかりに大きな声を出した。
「どうしよう、私が緩めろって言ったからだ…」
せっかく体調が復活したのに、また顔色を悪くするペトラ。すぐさまオルオが安心させるような優しい声を出した。
「大丈夫だって。マヤが言ってたけどよ、踊ってたときにはつけてたって。だからそのへんに落ちてるからって見にいっただけだし」
「……だといいけど。マヤが出ていったのっていつ?」
「さぁ…。さっき?」
時計を見ていなかったし、いつしか眠ってしまっていたオルオはマヤがどれくらいのあいだ、この部屋にいないのかを答えられない。