第27章 翔ぶ
時をさかのぼること少し。
リヴァイはバルコニー貴賓席にいた。テーブルの向かい側にはバルネフェルト公爵、腰かけたソファの隣にはナイル師団長。
公爵はとにかく機嫌が良い。
ナイルが身振り手振りをまじえて話す、グロブナー伯爵のミスリル銀贋物事件に興味津々だ。
……公爵は今、壁外調査よりミスリル銀事件に夢中だ。
リヴァイは公爵の興味が自身からナイルに移って好都合とばかりに、黙って酒を飲んでいた。
……さて、どうやってここを出るかな…。
ペトラがダンスで気分が悪くなったあとに、公爵に手招きされた。
リヴァイの口からペトラの様子を聞いた公爵は “ホストの息子が対応するだろうから心配しなくてもいい。さぁリヴァイ君、一緒にナイル君の話を聞こうではないか” と着席をなかば強要されて今に至っている。
「おやリヴァイ君、もう酒がないではないか」
給仕を呼ぼうとする公爵をすかさず止める。
「いやもう結構。公爵、ペトラの様子を見に行きたいのだが…」
「あぁぁ! うん、そうだね。行ってやってくれたまえ。私のことは気にしなくていい。ナイル君がいるからね」
肉の串焼きをむしゃむしゃと食べていたナイルに向かって、公爵はチャーミングに片目をつぶった。
「では… お言葉に甘えて失礼する。ナイル、あとは頼んだ」
「あぁ、ここは任せろ」
ごくんと肉をのみこむと、ナイルは公爵に向かって事情聴取のつづきを話し始めた。
「……グロブナー伯爵の次に呼ばれたカイン卿は…」
ナイルのしゃがれ声を背中で聞きながら、リヴァイは螺旋階段を下りていく。
フロアに着くと、執事長のセバスチャンが呼んでもいないのに音もなく現れた。
「リヴァイ様、ペトラ様は “ファビュラス” というお部屋で休まれています。ご案内いたしますが…」
「頼む」
「かしこまりました。どうぞ、こちらへ…」
広間を出て、廊下を行く。
セバスチャンの白髪頭を後ろから眺めながらリヴァイは感心する。
……客が要望を口に出す前に、察知して動く。執事の鑑だな…。
「こちらが “ファビュラス” でございます、リヴァイ様」
セバスチャンは恭しくお辞儀をすると、軽やかに去っていった。