第27章 翔ぶ
「ふふ、可愛い」
しばらく微笑みながらアレキサンドラを撫でていたマヤだったが、ふとペトラのことを思い出す。
「レイさん、私… そろそろ行きます。ペトラが気になるし…」
「あぁ、そうだな。オレも広間に戻らねぇと…。これでも一応ホストだしな」
二人はガーデンベンチから立ち上がった。レイはアレキサンドラを抱いたままだ。
「アレキサンドラはどうするの?」
「そうだな…。広間に連れていく訳にはいかねぇから、セバスチャンに預けるかな」
薔薇テラスの扉を抜け、廊下を歩きながらマヤは目を丸くする。
「執事さんは猫ちゃんのお世話もするんですね?」
「まぁな。執事長というよりは “なんでも屋の爺や” だな、セバスチャンは」
レイが “なんでも屋の爺や” と言ったときの顔がとても愛情にあふれていて、マヤは思う。
……レイさんは、セバスチャンさんのことが大好きなんだわ。
そうこうしているうちに “ファビュラス” の部屋の前まで来た。
「じゃあ、ここで…。アレキサンドラ、またね」
レイに大人しく抱かれたままの白猫に声をかけてから、マヤはぺこりと頭を下げた。
「舞踏会の夜は長ぇから、もしペトラが回復して行きたいっていうなら、いつでも広間に戻ってこい」
「わかりました」
「じゃあな」
再びお辞儀をして “ファビュラス” の扉をノックしながら入っていくマヤの背中を見ながら、レイは静かに決意をかためていた。
……マヤ、お前に好きな男がいねぇなら。
兵士長がただの上司で関係ねぇのなら、オレはお前を諦めねぇ。
今すぐは無理でも、必ず振り向かせてやる。
……覚悟しろよ!
完全に閉まった “ファビュラス” の扉をぐっと見据えたのちにレイはくるりと体の向きを変え、その場から立ち去った。