第27章 翔ぶ
「ミャオ! ミャオン!」
アレキサンドラは半開きになっていた薔薇テラスの扉に向かって激しく鳴いている。
「……どうしちゃったんでしょうね?」
「さぁ…。アレキサンドラ、どうした? ネズミでもいんのか?」
レイはガーデンベンチから立ち上がると、アレキサンドラの方へ。
「ミャオ! ミャオ~!」
「おいおい、激しいな」
笑いながらレイはアレキサンドラをひょいと抱き上げると、扉からにゅっと廊下へ顔を出す。
「ネズミも何も、いねぇじゃないか」
レイに抱っこされたまま帰ってきたアレキサンドラの頭を、マヤは撫でる。
「どうしたの? ねずちゃんがいたの?」
「ミャオ!」
「そうなの…。いたのね?」
「ミャオ~!」
アレキサンドラは得意げに鳴くと、レイの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「やっぱりネズミがいたんじゃないですか? いたって言っている気がします」
「ミャオ!」
「こいつ、宝石泥棒は得意でもネズミ捕りはてんで駄目だからな…。当てにならないぜ?」
「……ミャオン」
不服そうなアレキサンドラの声。
「ネズミ捕りって…。よく考えたらこんな立派なお屋敷にネズミがいるのですか?」
「王都の中心部にもっと近ぇところのタウンハウスでは出ねぇが、ここはほら…」
レイは薔薇園の奥に鬱蒼と茂る森に目をやる。
「馬鹿でけぇ森があるからな。屋敷では見ねぇが外ではたまに見かけるぜ? こんなチビのやつ…」
右手の親指と人さし指を広げて十センチメートルほどを示しながら、話をつづけた。
「それに下手くそといってもアレキサンドラも猫のはしくれ。一匹や二匹くれぇは捕まえてきたこともあるしな」
「そうなんですね。アレキサンドラ、すごいね」
「ミャオ!」
マヤにネズミ捕りを褒められて、嬉しそうに目を細めた。