第26章 翡翠の誘惑
「マヤ…」
レイは名だけ呼んで、ひらいた口を閉じた。
……やっぱり訊けねぇか、こんなこと。
あのときの馬車でのリヴァイ兵士長の態度から、マヤを特別に想っていることは一目瞭然。
もしマヤも兵士長のことを好きならば相思相愛、オレの入る余地はねぇ。
………。
訊くのが怖ぇ。
もし、もしマヤが兵士長を…。
だが訊くしかねぇだろ、やっぱり。
マヤが兵士長を好きだと言うなら、男らしく身を引く。
……そうだ、それしかねぇ。
レイは決意を固めると、あらためてマヤの方を向く。
「兵士長のことを、どう想う?」
「……どう想うって…」
突然リヴァイの名前が出てきて、マヤは少なからず動揺した。
……レイさんには、私の心の中が見えるのかしら…。
さっきから、兵長を想うがゆえにレイさんとの将来を考える選択肢はないと考えていたわ…。
でもそんな私の気持ちを、知り合ったばかりのレイさんに言う訳にはいかないもの。
なのにレイさんの方から、兵長のことをどう想うか? だなんて…。
……どうしよう、なんて答えたらいいんだろう…。
嘘はつきたくない。
かといって、リヴァイ兵長を好きですともやっぱり言うことなんかできない。
マヤは悩んだあげくに、こう返事をした。
「……尊敬してますけど?」
語尾が上がってしまったのは、“尊敬してますけど、だから何ですか? もうこれ以上兵長のことは私に訊かないで” という気持ちの表れだ。
レイもマヤの声色を敏感に察知した、リヴァイのことにふれられたくないことを。
だが… 引き下がる訳にはいかない。
「……尊敬?」
「はい。兵長は誰よりも強くて、だからこそ誰よりも部下のことを考えてくれていますから」
マヤは、きっぱりと言いきった。
「ハッ、それはそうだろうよ。人類最強の兵士長は立派で尊敬に値するに違いねぇ。でもオレが訊きたいのはそういうんじゃなくてマヤ、お前が兵士長のことを男としてどう想ってるかなんだが」