第26章 翡翠の誘惑
細長い指のあいだからのぞく翡翠の瞳は、苦悩に満ちて。
その表情に胸が締めつけられて、マヤは思わず言葉を添えてしまった。
「……嫌という訳ではないですけど…。ただ結婚とか急に言われても考えたこともないし、今はそういうのとは遠いところで戦っていますから…。それだけです」
自身を気遣うように優しい声色で包んでくれるマヤに、レイの気持ちは少しやわらぐ。
「嫌じゃねぇ?」
「ええ、まぁ…。嫌だからお断りというのではなく、今はそういうことは考えられないというか…」
レイは顔を覆うのをやめた。
「なら… 今すぐじゃなくていいんだ、結婚は。調査兵だってしばらくはつづけたっていい。とりあえずつきあうってぇのはどうだ?」
「いえ、それは… ちょっと…」
「なぜだ?」
「なぜって…。結婚も考えられないですが、おつきあいするっていうのも…。それに大体…、私とレイさんは今日で会うのは二回目なんですよ? それなのに結婚だのつきあうだの…。どうして急にそんなことを?」
理由を訊くのは失礼だと思いつつ、話の流れで口にしてしまう。
「そんなことを訊くのは野暮だぜ…? マヤ、お前のことが好きだからに決まってんじゃねぇか」
「………!」
ストレートに好きだと気持ちをぶつけられて、マヤの胸は強い驚きでいっぱいになる。そしてゆっくりと気恥ずかしさもふくらんできた。それと同時に顔も熱くなる。
赤くなってうつむいてしまったマヤに熱い視線を送りながら、レイはさらにささやく。
「……それ以外に理由なんかあるかよ…」
「……そう… ですか…」
先ほどきっぱりと “無関係の世界だ” “結婚はできません” と言いきったマヤが、顔を赤くして明らかに動揺している。
……いきなり結婚してくれではなく、オレの気持ちから伝えた方が良かったのか。
せっかくの想いを伝えるチャンスを、このまま終わらせるつもりなど全くなかった。
……想いを曖昧にごまかしたり、うやむやにしてしまったり、そんな中途半端なことはしたくねぇ。
レイはその強い想いで、こう切り出した。
「マヤ、オレのことが嫌いか?」