第26章 翡翠の誘惑
真摯な翡翠の光を前にして、マヤは最後まで言えなくなってしまった。
「レイさん、からかうのも…」
……ううん、レイさんはからかってない。冗談なんかじゃないんだわ…。
「あの…、からかってるんだと思ったけど、そうじゃない… んですね…?」
「あぁ、そうだ。からかってなんかない。いたって真面目だ」
瞳の色だけではなく、その声からも真剣な様子が伝わってくる。
マヤも真剣に、誠意をもって返事をすることに決めた。
「私は調査兵になって二年目です。まだまだ新兵とさほど違わないひよっこ兵でもありますし、将来のことを考えたことはありません。あるとしてもレイさんの言ったような…、故郷に帰るとか結婚とかではなくて、そうですね…、いつかウォール・マリアを奪還できたなら… とか、巨人を殲滅したらとか、そんなことばかりで…。だから結婚なんて今の私には到底考えられない、いわば無関係の世界のお話です」
無関係の世界の話とは、少々言いすぎなような気もするが、マヤはこれでいいと思った。
無関係だということはない。
恋には憧れるし、いつか仲の良い両親のように結婚したいともなんとなくは思っている。
そして片想いではあるけれど、リヴァイ兵長を想っている。
……でもそんなのは…、レイさんに言うことではないし。
とにかく理由はよくわからないけど、冗談ではなく真剣に求婚してくれた以上は、こちらもきちんと断らないと…。
その強い想いで、マヤはきっぱりと “無関係の世界” と言いきり、断った。
「だから、すみません。結婚はできません」
ちゃんと相手の目を見て。
気持ちをきちんと伝えて。
マヤはしっかりと、レイの瞳を真正面からとらえて返事をした。
「ハッ…。想像よりきついもんだな…」
レイはくしゃっと顔をゆがめて、少し苦しそうに笑った。
「オレだって馬鹿じゃねぇ。お前が “はい、喜んで!” と二つ返事で結婚するとは思ってねぇさ。だが…」
翡翠の瞳の翳りを見せたくないとばかりに、レイはその細長い指で顔を覆った。
「いざマヤに… その琥珀色の瞳で、オレの胸にいつもぶつかってくるその声で… 直接嫌だと言われるとこたえるぜ…」