第26章 翡翠の誘惑
「エーデルワイス?」
マヤの知っているエーデルワイスは小さな星の形をした白い花だ。“白” ではあるが決して “薔薇” ではない。
「……薔薇じゃないですよね?」
「いや、薔薇でエーデルワイスという品種もあるんだ。ほら…、あそこのアーチに使われているのがエーデルワイスだ」
レイは幾つかある薔薇園のアーチのうちの一つを指さした。
「うわぁ、素敵!」
密集して咲いている白いエーデルワイスの薔薇の花のアーチ。それはあたかもロマンチックな夢の世界へつづくトンネルの入り口のようだ。
「薔薇のエーデルワイスも綺麗ですね」
薔薇の話題でマヤの緊張は完全に解けている。ダンスのことも忘れて自然な感じでレイに身を預けながら、薔薇園に咲き誇る白い薔薇を眺めていた。
「そうだ!」
何か言いたいことがあるらしい。マヤは薔薇からレイへ視線を移した。
「今夜私が泊まるお部屋にも名前があるんでしょう?」
「あ、あぁ…」
「なんていう名前で、その薔薇はどれですか?」
きらきらと瞳の中の小さな星を輝かせながら、マヤが訊いてくる。
「お前の部屋の名は…、ザ…」
レイは何かを答えかけたが、わずかに頬を赤くして黙ってしまった。
「レイさん?」
「悪ぃ…、よく考えたらマヤがどの部屋に泊まるか知らねぇ…」
「そうですか…。残念!」
素直にレイの言葉を信じて、また熱心に薔薇園の薔薇を眺め始めるマヤ。
その横顔を盗み見するようにしながら、レイは心の中で叫んでいた。
……危ねぇ!
部屋の名前を白状するところだった。
言える訳ねぇだろうが…!
マヤ、お前の部屋の名が “ザ・ブライド” ……花嫁だなんてよ!