第26章 翡翠の誘惑
たとえそれが猫であってもマヤがリヴァイを想うとき、頬が薔薇色に染まる。
……黒い毛並みで、きっと目つきがちょっと悪くて、それから… 絶対にものすごく強い猫ちゃんのはずだわ…!
一匹狼の黒猫が次々と他の野良猫や野良犬を、その鋭い爪と牙と眼光でばっさばっさとなぎ倒していく様子が目に浮かんで、マヤは微笑んだ。
アレキサンドラからマヤに視線を移したレイは、胸がドクンと高鳴った。
マヤが頬を染めて微笑んでいるその姿が、薔薇テラスに咲く一輪の花に見えたからだ。
「どうした…? 何を笑ってんだ?」
マヤはリヴァイが猫類最強の黒猫だという妄想からハッと我に返る。
「あっ、笑ってました?」
「あぁ」
「猫ちゃんへの生まれ変わりの想像がちょっと楽しくって…」
はにかむように笑うマヤが思い浮かべている生まれ変わりの猫が黒猫だとは、レイは知らない。
「確かに面白ぇよな!」
きっとマヤは、白猫とこげ茶猫のほのぼの日常生活でも妄想していたに違いないと勝手に決めつけて、レイはすこぶる機嫌がいい。
そして右手の中にあるアクアマリンの耳飾りを思い出した。
「……これ、つけねぇとな」
「あっ、すみません…」
もちろん自分の手でつけるのだとマヤは考えていたのだが、なぜかレイはぐいぐいと近づいてきて、耳飾りをレイの手で直接つけようとする。
あまりの至近距離にマヤは一歩後ずさってしまった。
「自分でつけられますから…」
「ここには鏡がねぇからな。オレがつける方がいいだろ? 遠慮するな」
「遠慮じゃなくってですね…!」
抗うマヤだったが、もうレイの手は耳たぶにふれている。
「……ひゃっ」
「変な声出すな。じっとしろよ…」
為す術もなくカチコチにかたまったマヤは、大人しくレイに耳飾りをつけてもらうしかなかった。
「よし、できた。どうだ、痛くねぇか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
マヤはつけてもらった耳飾りの感触を指先で確かめた。
……もう二度と落とさないようにしなくっちゃ。