第26章 翡翠の誘惑
「アレキサンドラ、その首輪はつけておけよ? 似合ってるからな。寝床には新しい石を入れといてやる」
「ミャオ!」
アレキサンドラは尻尾を高々と上げて機嫌良く鳴いた。
「アレキサンドラは本当に宝石が好きなんですね。それに、レイさんのことが大好きなのもよくわかります。呼んだら走ってくるなんて、びっくりしました」
「まぁな、こいつはオレに懐いているから」
愛おしそうな様子でアレキサンドラを撫でてやるレイ。
白い月の光が降りそそぐテラスで。
銀髪のレイと白猫のアレキサンドラ。その背景には白い薔薇だけの園。
なにもかもが闇夜に白く輝く、妖しいまでに。そのなかでキラリと光るレイとアレキサンドラの瞳は、ともに美しい翡翠色。
「……似てますね」
思わず声が漏れてしまう。
「何が?」
「レイさんとアレキサンドラ。……もしレイさんが猫に生まれ変わったら、きっとアレキサンドラみたいなんじゃないかなと思います」
「あぁぁ、オレの髪とこいつの毛、似たような色だもんな」
「はい…。それに目の色も綺麗な緑ですし。それこそアレキサンドラが好きそうな…。輝く翡翠みたいです」
マヤの言葉を聞いたレイは、アレキサンドラの瞳を覗きこむ。
「……そうだな。結構似てるかもな」
そう言ってレイは嬉しそうに笑ってみせた。
「オレが猫になったらこいつみたいな白猫になるのなら、マヤはこげ茶色の猫だな」
「あはっ、そうかも」
「そして目の色は琥珀で決定」
「ふふ」
マヤが楽しそうに笑っているのを見て、レイは調子づく。
「で、あれだ。ペトラとオルオは猫に生まれ変わっても、引っかき合いの喧嘩ばっかりしてそうだよな?」
「そうそう、ペトラがフー! シャー! と怒ってそうです」
「だよな。でもどんなに怒られてもオルオは健気に頑張るんだろうな」
「そうですね!」
レイとマヤは猫になったペトラとオルオがじゃれているところを想像して、笑い合った。
「ミャオ!」
「アレキサンドラもそう思うか? あっ、お前はあいつらのことは知らねぇか」
「ミャオン」
レイとアレキサンドラが会話しているのを聞きながら、マヤは心の中でもう一人の猫を思い浮かべていた。
……兵長がもし猫に生まれ変わったら、きっと艶やかな毛並みの黒猫だわ。