第12章 心づく
ミケは手に折りたたんだ白い絹のハンカチを持ったまま、店内をぐるっと見渡した。
「本当にこの店には… ありとあらゆる物があるんだな」
「そうですね。見てるだけでも楽しいでしょ?」
マヤは陶器の売り場に足を向けた。
「可愛いのがいっぱいある!」
輝く視線の先には色とりどりのマグカップ。
「虹の色が全部揃ってますね」
「虹の色?」
「はい」
マヤは、ひとつひとつ指さし始めた。
「これは燃え盛る炎の赤。これは… 沈みゆく夕日の橙色。これは春のタンポポの黄色。あれは… 萌ゆる緑。どこまでも広がる空の青に深い湖の藍色。そして… みずみずしい葡萄の紫。この七色は虹です」
「……なるほど」
ミケは内心 色ひとつ例えるのに、すらすらと言葉が出てくるものだと感心した。
好ましい気持ちでマヤを見下ろしていると、彼女があるひとつのマグカップを手に取り熱心に見ている。
ミケが肩越しに覗くと、それは空をイメージさせる澄んだ青色をしていて、カップの上部には白い鳥が羽ばたくシルエットが描かれていた。
「気に入ったのか?」
そのマグカップに心を奪われていたマヤは、急に上から降ってきた声に驚いて思わず顔を上げると、ミケが優しく笑っていた。
「はい。とっても素敵です」
「よし。ではそれをお前に贈ろう」
「え?」
ミケはマヤの手からそっとそのマグカップを取ると、店の奥へ進む。
「分隊長? …え? …なんで?」
ミケを追いながらマヤが叫ぶ。
ミケは振り返ることなく店の奥に置物のように座っていた店主の老婆に、白い絹のハンカチと青地に白い鳥の羽ばたくマグカップを手渡した。
「贈り物だ。それらしく包んでくれ」
「はいよ」
包み終わった二つの品を受け取り会計を済ませたミケは、黙って店を出ていく。
マヤは、何も答えず足早に去るミケの背中を追うしかなかった。
馬柵でやっと追いついたマヤは、再び問いかける。
「分隊長、どういうことですか?」
ミケはマグカップの包みを差し出した。
「マヤ、今日はつきあってくれてありがとう。これは、その礼だ」