第12章 心づく
貴族のお嬢様かと問われ、ミケは顔を強張らせた。
その様子にマヤは、慌てて謝った。
「すみません! 詮索するつもりはなかったんですけど、上品なハンカチだったからつい…」
「いや… いいんだ」
ミケは手許の白いハンカチを、丁寧に折りたたみ始めた。
「マヤ、俺は逆に… お前が何も訊いてこないんだなと思っていた」
「え?」
「普通… 好きな女がいるなんて聞かされたら、一番にそれは誰かと訊きそうなものだが」
ハンカチをたたみ終わったミケは、マヤの瞳を覗きこむように屈んだ。
「そんなに興味がなかったか?」
いつもは遠いミケの顔が急に目の前に来て、マヤはドキッとする。
すぐそこで砂色の長い前髪が揺れ、その奥の小さな目が優しく笑っていた。
「……もちろん訊きたかったですよ? でも…」
「でも?」
「分隊長を困らせちゃいけないと思って…。分隊長が言いたかったら言ってくれるだろうし、私からは訊かないでおこうと思ったんです」
「……いい子だ」
ぽんとマヤの頭を軽く叩いて、ミケの顔は離れていく。
「こ、子供扱いしないでください!」
「お前 いくつだ?」
「16です」
「はははは」
ミケが愉快そうに笑う。
マヤは笑うミケを軽く睨んだ。
……失礼な分隊長! でも…。
そうだ。分隊長って何歳なんだろう?
マヤはミケの年齢を今の今まで考えたことがなかった。
同期や先輩兵士の年齢は大体予想がつくが、団長や兵長、分隊長の年齢は皆目見当がつかない。
「あの… 分隊長って、おいくつなんですか?」
「俺か?」
「はい」
「いくつだと思う」
「うーん…」
マヤはミケの顔を見上げながら考える。
……ほんと 何歳なんだろう?
こういう場合あんまり年寄り扱いしたら失礼よね? いや… 男の人はそんなの気にしないかな。
私のことを子供扱いするんだから、10歳は上よね。
「10歳くらい上ですか?」
マヤの出した答えに、ミケは鼻を鳴らした。
「リップサービスしてくれるのか」
「違いますよ。それくらいかな?って思ったんです」
マヤはふと気づく。
「リップサービスってことは… もっと年上なんですか?」
「あぁ、俺は31だ」