第12章 心づく
マヤが立ち止まった場所には、色とりどりのハンカチが綺麗に折りたたまれて並べられていた。
「ほぅ…、こんなにあるのか」
軽く驚いているミケに、マヤは少し得意そうに。
「はい。こんなに種類があったら、きっとイメージに合ったものが見つかるでしょう?」
「そうだな」
ミケはその大きな手で薄桃色のハンカチを手に取った。広げてみると大判の木綿の無地だ。
じっと見下ろしていたが、ミケは鼻を鳴らして折りたたんでしまった。
「どうかしました?」
「色は綺麗だが…、こう… もう少し…」
黙りこんでしまったミケをマヤはうながす。
「もう少し…?」
「これはシンプルすぎる。もう少しこうひらひらと… あれなんて言うんだ」
「レースですか?」
「それだ。レースが縁にある上品なのがいい」
「レースですか…」
マヤは奥の方に並べてあるレースの縁飾りが美しいハンカチを手に取った。
「こういう感じのですか?」
それは雪のように白い絹で織られていた。
「やわらかい…」
しなやかでやわらかく美しい艶を放つ手の中のひとひらの布を、マヤは顔の前で真四角に広げた。
「いかがですか? 分隊長」
「……そうだな…」
ハンカチに手を伸ばすミケの指が、マヤの手にふれた。
顔の前に広げていたことによって視界を失っていたマヤは、指に唐突に感じたぬくもりに驚き小さく声を漏らす。
「あ…」
「すまない」
ミケは詫び、手を引いた。
「いえ…」
ミケは今度はマヤの手にふれぬよう細心の注意を払い、ハンカチをそっと手に取った。
ハンカチがミケの手に移ると、顔を赤くしてうつむいているマヤの顔が残った。
「フッ、顔が赤いぞ」
ミケのからかうような声に、マヤは顔を上げた。
「ちょっと驚いただけです!」
頬を軽くふくらましたマヤの顔を見て穏やかに微笑んだミケは、ハンカチに目を落とした。
「良い品だな」
「そうですね… これにしますか?」
「お前は好きか?」
「私の好みを聞いてどうするんですか」
マヤが笑う。
「いや、まぁ あれだ。参考にする」
「うーん、そうですね… 素敵だけど、私には上等すぎます。分隊長、相手の方は貴族のお嬢様ですか?」