第12章 心づく
「……そうですか…。綺麗な人なんですね」
「あぁ、とっても」
外さないミケの視線に恥ずかしくなったマヤは、下を向いた。
「派手じゃない、落ち着いた感じの美人さんなんですね?」
「そう… そのとおり」
「じゃあ… その方をイメージしたハンカチなんかはどうでしょう?」
「ハンカチ?」
「はい…。最初はお花もいいかなと思ったんですけど、分隊長は手元に残るものを希望されてますし…。ハンカチだったら何枚あってもいいですし」
「では… そうしようか」
ミケは、おもむろに立ち上がった。
「マヤ、ハンカチを売っている店に連れていってくれ」
「了解です!」
マヤは笑いながら立ち上がり、アルテミスの手綱を取った。
「こっちです。すぐだから歩いていきましょう」
広場からは放射状に道が伸びており、マヤはそのうちの一本に向かってアルテミスをひきながら歩き始めた。黙ってミケもヘラクレスをひき、あとにつづく。
目的の店は、すぐに見えてきた。
「あそこです」
マヤが指さした方向には窓枠いっぱいに赤や黄色の小花を咲かせた植木鉢をたくさん並べた、いかにも女の子が好みそうな雑貨屋があった。
通りには何軒かの店ごとに馬をつないでおく馬柵があり、二人はそこにヘラクレスとアルテミスをつないだ。
「ちょっと待っててね」
マヤはアルテミスの鼻先をポンポンと撫でた。
ブルッブルッ、ブブ。
鼻を鳴らすアルテミスに微笑むと、マヤはミケと雑貨屋に向かった。
カランコロン。
雑貨屋の扉をひらくと、素朴で丸みのある鐘の音が耳に心地良い。
店内は可愛らしい雑貨で埋め尽くされていた。
入って左側には帽子やバッグ、ストールや手袋にハンカチなどの小物が充実していた。
反対側の角には陶器の人形や綺麗な色のガラスの瓶、ティーカップにマグカップ、飾り皿などが所狭しと陳列されている。
「あいた!」
右も左もわからずにマヤのあとを歩いていたミケが、天井からぶら下がっている籐で編んだバスケットに頭をぶつけた。
ミケの声に振り向いたマヤが笑う。
「分隊長、やたら背が高いから!」
「この店は俺には小さすぎるようだ」
「ふふ、棚の上の物を落とさないように気をつけてくださいよ」