第26章 翡翠の誘惑
「アンなんちゃらって名前の発明家が作ったそうっす。今のとは形もちょっと違っていて、ガスボンベが大きかったしブレードなんかこう短くって不細工な感じで…!」
オルオは身振り手振りで試作品の特徴を伝える。
「ほぅ…。それはなかなか興味深ぇな」
公爵がミュージアムに案内したいとかなんとか言っていたときは、ろくに聞いていなかったし、全く興味など湧かなかったが…。オルオが語る “立体機動装置の試作品” なるものは面白そうじゃねぇか。
「兵長も行ったらいいっすよ!」
そうにこやかにミュージアムを推していたオルオは、すぐにあることを思い出した。
「あっ! やべぇ…、そうだった!」
「………?」
「立体機動装置の試作品は隠し部屋にあって、誰でも見られる訳じゃなかったっす。でもレイさんなら、頼んだら見せてくれる気がします」
「……そうか」
一瞬興味を惹かれた試作品だったが、レイモンド卿に頭を下げてまで見たいとは思わない。
リヴァイは急速に興味をなくし、まだ湯気を立てている紅茶に口をつけた。
そのころ控えの間では。
せかせかとした動きの髪結いが、目にも留まらぬスピードでマヤとペトラの髪をアップにしていた。
マヤが背の真ん中あたりまでのストレートロング、ペトラが肩までのふんわりとしたセミロングだ。色はどちらもブラウンだが、マヤは黒に近いほどのダークブラウンで、反対にペトラの色味はかなり明るい。
「すみません、私… このあと10件入っているんで、お二人同じアレンジでもいいですかね?」
鏡の前に二人をならんで座らせて、あっという間に髪全体を編みこんだかと思うと、髪結いは一応質問形式で訊いてきたが、マヤとペトラの答えなど一切聞かずに髪をハーフアップにまとめ始めた。
「はい、完了! いかがでしょうか? 素敵でしょう?」
パンッと両手を叩いて、髪結いは得意げに笑う。
「はい、素敵です…!」
「うわぁ、自分でやるのと全然違う!」
マヤとペトラは鏡の中の、綺麗に編みこみハーフアップでまとめられた自身の姿に目を輝かせた。