第26章 翡翠の誘惑
オルオの妹のオリーの髪を編みこんであげたり、ついこのあいだもマヤの髪をデート用に結い上げたばかりだ。なので少々腕に自信のあるペトラだったが、王都の貴族御用達の髪結いの実力に心底感激する。
「本当にすごいです! あんなに速いのに完璧に編みこまれてる。それにこのおくれ毛…」
ペトラは自身の耳の後ろに少したゆんだシルエットで出されているおくれ毛にふれながら。
「この抜け感が大人っぽくて素敵!」
ペトラの感想にマヤもうなずいた。
「うん、本当に綺麗にセットしてもらえたよね。それに…」
マヤは顔を左右にぶんぶんと振ってみせる。
「トップとサイドはしっかりと編んであるから全然崩れないのに、このおくれ毛が揺れて可愛いね」
どうやら二人とも、サイドの髪を結い上げて出ている耳元から、マヤはさらさらと、ペトラはふんわりと出ているおくれ毛を大いに気に入ったらしい。
「どうもどうも。私のおくれ毛は計算されてますからね。お二人の顔の輪郭に合わせて作ってますから」
せかせかした髪結いは、年のころは30過ぎくらいだろうか。自身の腕前に胸を張っている。
「ささ、これで終わりじゃないですよ」
髪結いは大きな荷物の中から、牛革でできた携帯用のジュエリーボックスを取り出すと、パチンとふたを開けた。
「ええっとマヤ様はこれ…。ペトラ様は…」
ぶつぶつとつぶやきながら、アクセサリーを二つ手に取った。
「マヤ様は耳飾り、ペトラ様は首飾りです」
髪結いの手許には、森の奥深くでこんこんと湧き出る岩清水のような透明感のある碧い石の耳飾りと、草原の上に広がる青空で燦々と輝く太陽のような橙色の首飾りが煌めいている。
「「うわぁ…!」」
きらきらと光り輝く小さな石に、マヤとペトラの心は躍った。