第26章 翡翠の誘惑
「べ、別に兵長がそうだと言いたいんじゃないっすよ!」
説明から弁明に走り始めたオルオをじろりと睨む。
「当たり前だ」
「そういう話をしていたもんで、つい酒を見て思い出しただけっす…」
「お前がそう思ったのも仕方ねぇな。問題はレイモンド卿がどういう算段でこの酒を出したかだな…」
リヴァイは、ほんの少し気難しい顔をする。
「今の話では、招待状もねぇのに押しかけてきた俺に対する一種の皮肉か…」
「それは違うと思います!」
オルオは慌てた。自分のせいで、レイが悪者にされては大変だと。
「あの人は…、レイさんはめっちゃいい人で…。今日もミュージアムを案内してくれたし、気さくで親切で、俺も招待してくれたし…。だから嫌味や皮肉とかをやるような人ではないかと…!」
必死でレイを擁護しているオルオを見て、リヴァイは口角を上げた。
「ハッ、そんなことはわかっている。あれはああ見えてまともな方の貴族だからな…」
「えっ、じゃあさっきのは…?」
「ちょっとした冗談だ」
「……そうっすか…」
……兵長、それ… 全然わかんねぇし、面白くねぇっす!
オルオはもちろんそんなことは、直接リヴァイに言えるはずもない。皺くちゃの顔をもっとシワシワにして苦笑いをするにとどめた。
「ミュージアムに行ったのか」
「はい。なんでも飾ってあってすごかったっす。兵長も行ったことあるんですよね?」
「ねぇよ」
「あれ? そうっすか…」
「あぁ、エルヴィンはあるみたいだがな。そもそも俺はバルネフェルト家に来るのは今日で…」
リヴァイは一瞬天井の左上を睨んで、数えている素振りを見せた。
「四回目だ。二回目のときに公爵に、ミュージアムがどうのこうのと言われたが受け流したからな…。だから行ったことねぇよ」
「そうだったんすか。面白かったっすよ。ほんと何から何まであって。レイさんがピアノも弾いてくれたし。あっ!」
オルオは重要なことを思い出した。調査兵として一番興味を惹かれるもののことを。
「立体機動装置の試作品を見せてもらいました」
「立体機動装置の試作品…?」
訝しげな様子でリヴァイは繰り返した。