第26章 翡翠の誘惑
一方、待合室では。
「「「兵長!」」」
予想外に現れたリヴァイを、マヤたち三人が質問攻めにしている。
「憲兵団本部に行ったんじゃなかったんですか?」
「ナイル師団長は一緒じゃないんですか?」
「舞踏会に公爵が招待ってどういうことっすか?」
「……うるせぇな。順番に話すから静かにしろ」
面倒くさそうな様子で、リヴァイはソファにどかっと腰を下ろした。
「「「………」」」
つられて三人も顔を見合わせながら、ゆっくりと座る。
「憲兵団本部には行った。エルヴィンの使いがあってな…」
そう言ってリヴァイは顔を軽くしかめた。
実際のところ、エルヴィンに押しつけられた書類は火急のものでもなんでもない。次の兵団合同会議のときにエルヴィンが自分でナイルに手渡せば済むものだ。
それをさも急ぎのものとばかりに、こう言いやがった。
“リヴァイ。もし調整日に王都に行くなら、これをナイルに渡してくれないか”
急ぎでは決してない書類と一通の封書。
さすがに封書の中身はわかりはしない。
どうせ書類同様にくだらねぇ手紙なんだろうよ。
……チッ、面白くねぇ。
マヤたちが舞踏会に招待されたというのに俺は同行できず…。行き詰まっていたところへ、調整日というアイディアをエルヴィンから授けてもらい…。それだけではなく、その取ってつけたような調整日も、普段は決してわざわざ寄りつきもしねぇ王都へ俺が堂々と行けるような理由付けの紙切れを押しつけやがって。
これでは俺が、まるであいつの意のままに行動するピエロじゃねぇか。
眉間に皺を寄せたまま、黙ってしまったリヴァイ。“静かにしろ” と言われたことも忘れて、ペトラが質問した。
「憲兵団に行ったのに、ナイル師団長と一緒じゃないんですね?」
「あぁ…」
ペトラの声でエルヴィンへの苛立ちから引き戻されたリヴァイは、話を再開した。