第26章 翡翠の誘惑
「兵士長。悪ぃがオレは招待した覚えはこれっぽっちもねぇんだが?」
最初の驚きから一瞬で立ち直ると、レイは冷ややかに言い放った。
「だろうな。俺も招待された覚えはねぇ」
リヴァイも冷淡に言い返す。
「……いくら調査兵団のご立派な兵士長といえども、よばれてもねぇのに勝手に入ってくるのはいただけねぇな。あっ、あれか… 憲兵団師団長のお供かな? だが悪ぃな、同伴者はオレは認めねぇ。とっとと出ていってくれ。あらためて次回に招待状を出そう」
一気にまくし立てると、レイはセバスチャンに命じた。
「セバスチャン、丁重にお見送りをしろ」
「……レイモンド様、リヴァイ様は正式に招待を受けていらっしゃいまして…」
「は?」
セバスチャンの返答に苛立ちを募らせるレイ。それとは対照的に、じっと状況を静観しているリヴァイは妙に落ち着いている。
「何を寝ぼけているんだ。さっきリストをチェックしたばかりだが、兵士長の名前は確実になかったぞ」
「……だろうな」
リヴァイが、ぼそっとつぶやいた。
「リヴァイ様は旦那様が先ほど特別に招待されました」
「親父が?」
「左様でございます」
申し訳なさそうに頭を下げるセバスチャン。
今宵の舞踏会のホストはレイだ。ホストの権限は絶対だ。
しかしここはバルネフェルト公爵邸。邸内において唯一すべての権限、すべてのルールを超越する存在がバルネフェルト公爵なのだ。
「悪ぃな、レイモンド卿。招待状もナイルも関係ねぇんだよ」
「………」
ショックを受けたらしく、レイは少し顔色を悪くしてうつむいている。
「そこをどいてもらおうか」
一歩わきに身を引いたレイの前を横切り、リヴァイが待合室に入ってきた。
「セバスチャン、ナイル師団長は?」
レイが青ざめたまま訊く。
「ナイル様はまだお見えになっていません」
「そうか…」
「言っただろ? あの薄ら鬚は関係ねぇって」
「あぁ…。セバスチャン、兵士長にお茶の準備を」
「かしこまりました」
速やかにセバスチャンが去り、レイもつづこうとしたが振り返った。
「兵士長、すまなかったな」
「気にしてねぇよ」
一瞬泣きそうな顔をしてレイは、マヤたちに声をかけて去っていった。
「マヤ、ペトラ、オルオ。またあとでな」