第26章 翡翠の誘惑
「あぁ…、ナイル師団長ですね」
マヤたちはもちろん、エルヴィン団長から知らされている。
団長や兵長、分隊長の上司が同行しない代わりに、監督役として憲兵団師団長のナイル・ドークが舞踏会に出席することを。
「団長からの招待状の返事で “調査兵団からマヤ・ウィンディッシュ以下三人の出席を認めるが、条件として憲兵団師団長のナイル・ドークの参加を了承していただきたく” ときたときには、少々驚いたがな。でもまぁグロブナー家で思ったんだが、あの二人… なんだか仲が良さそうだし? それに師団長はなかなかいい男だったからな。オレも招待するのになんの異存もなかった」
レイの言葉にマヤが答える。
「団長と師団長は、訓練兵時代の同期だと聞いています。だからグロブナー伯爵のお屋敷にも、迷うことなく呼んだのかと」
「同期か…」
レイはマヤ、ペトラ、そしてオルオの顔をゆっくりと見まわしてから微笑んだ。
「同期っていいもんだよな。お前らもいつまでも、いい関係でいろよ」
そして部屋を出ていこうとすると。
コンコン!
せわしないノック音が響いた。
「今度こそ髪結いが来たぞ」
ちょうど出ていこうとしていたレイが扉を開けると、セバスチャンが立っていた。
「レイモンド様!」
「……なんだよ、セバスチャン。髪結いかと思ったじゃねぇか。髪結いはどうなってる? 遅くねぇか?」
「それどころではございません! 少々困った問題が発生しまして…」
顔色を青くして何かを伝えようとしているセバスチャンの様子に気づいたレイの顔つきが真剣になる。
「どうした? 一体何が…」
「実は…」
しかしセバスチャンが報告しかけた内容を、最後まで言いきることはできなかった。
「あいつらの待合室はここか」
セバスチャンの背後から聞こえてきたのは、マヤたち三人にとって、もっとも聞き覚えのある低い声。
「リヴァイ兵士長…!」
レイが、そして。
「「「兵長!」」」
マヤたちが一斉に叫んだ。