第26章 翡翠の誘惑
「すご~い!」
「……まぁな」
ペトラの歓声に、気を良くするレイ。
てっきりホストとしての義務をきっちりと果たしている自身への賛美かと思いきや。
「百人以上!? このあいだの伯爵の舞踏会で何人いたっけ?」
「三十人くらいじゃね?」
「だよね。さすがレイさんのところだね! 百人も入れる大広間があるんだ」
「すげぇよな!」
ペトラとオルオはバルネフェルト家の舞踏会の桁違いの規模に驚いている。
「………」
少々落ちこんでいる様子のレイを見かねて、マヤが声をかけた。
「多分ですけど…。ホストさんが玄関に立って出席者全員を招き入れる訳ではないですよね? やっぱりそこは執事さんのお役目かと。だからどうしても絶対覚えなきゃいけない訳でもなさそうですけど…」
「そうだ。だがせっかく来てくれるんだから、オレが顔を合わせた途端に “こいつ来てたのか” なんて表情をしねぇようにするのはマナーだと思うからよ…」
「ふふ、そうですか」
義務感だけから出席者リストをチェックしたのではない。そこには出席者への思いやりがあった。
そんな礼儀正しいレイを好ましく感じて、マヤは微笑んだ。
「おい、なんだよ。何がおかしいんだ」
「レイさん、意外ときちんとされてるんだなぁと思って」
「……意外か?」
「意外です。ねぇ?」
ペトラに話を振る。
「うん、そうだね。そんな全員を把握してたら、百人を招待したときなんかパンクしちゃいそう。そこをちゃんとやるなんて、レイさんって見かけによらず意外と真面目なんだ」
「まぁな…」
褒められているのか、けなされているのか…、よくわからなくなってレイの眉間に皺が寄る。
だが。
「出席者のチェック、大変でしたね」
マヤの涼し気な声でねぎらってもらえて、一気に機嫌も良くなった。
「あぁ、ありがとう。オレも着替えないといけねぇし、もう行く。髪結いもじきに来るだろう。それに…」
レイは何かを思い出した様子で、つけ加えた。
「リストには憲兵団師団長の名もあったから、来たらここに案内させよう」