第12章 心づく
マヤが空気にお願いして風に乗せてもらうと口にしたそのとき、一陣の風が大楠を揺らした。
サワサワと葉がざわめく響きに合わせるように、マヤの長い髪が舞う。
乱れる髪を右手で押さえるマヤの姿に、ミケは見惚れてしまった。
「やだ… すごい風!」
風に乗って流れてきたマヤの匂いが心地良い。
……スンスンスンスン…。
マヤは、ミケが嗅ぎ出したことに気づいた。
「何か… 匂いますか?」
「あぁ… お前の匂いだ」
「え? こんなに離れてるのに?」
「風が今、運んでくれた」
ミケは穏やかな顔をマヤに向けた。
「マヤ、お前は風と友達なんだな」
「ふふ、そうだといいけど…。そうなりたいです」
「なってるさ、だから飛べるんだな」
ミケの言葉を後押しするかのように、二人の間を優しい風が通り抜けた。
「……そろそろ行こうか」
「はい」
ミケとマヤは立ち上がり、街に戻る準備を始めた。
ヘラクレスに乗ったミケは、マヤが楠の幹に手を当てているのに気づく。
「どうした?」
「あ… いえ… お別れを」
ミケは優しく鼻を鳴らした。
「行くぞ」
「はい!」
丘から吹き下ろす風が、去りゆく二人の背を押した。
街まで戻ってきたミケとマヤは、中央にある広場で馬をおりた。
「分隊長、いよいよ本日のメインイベントですね!」
マヤが明るい声を出すとミケは、
「そうだな、よろしく頼むよ」
と、微笑んだ。
「何を贈ろうと思ってるんですか?」
マヤが単刀直入に訊くと、ミケは困った声を出した。
「……それが全く皆目見当がつかん」
「ええ!」
「だからお前に頼んだのではないか」
何か… 例えばアクセサリーなど贈る物は決まっていて、その中から選ぶお手伝いをするものかとばかり思っていたマヤは、全くの白紙状態のミケ分隊長に驚いてしまった。
「……そうですか…。じゃあ一緒に考えましょう」
マヤは広場にある馬つなぎの杭に手綱をかけると、花壇の横に設置してあるベンチに座った。
「長くなりそうだから座りましょう」
マヤの隣に、ミケは大人しく腰かけた。