第12章 心づく
ミケとマヤはサンドイッチを食べ終え、水筒の水を美味しそうに飲んだ。
「ごちそうさまでした」
マヤは頭を下げ、笑った。
「分隊長、こんな美味しいお昼を用意していただいて… なんだか私が賭けに勝ったみたいですね」
その言葉にミケは目を細めた。
「そんなに喜んでもらえたなら俺も嬉しいから、これでいいんだ」
「ふふ、そうですか?」
「あぁ」
そのとき薫風がさぁっと吹き渡り、二人の頭上でサワサワと葉がざわめいた。
マヤは目を閉じ、耳を澄ます。風と楠の葉が織り成す音色のハーモニーは優しく、心地良い。
楠の下は、気の遠くなるような長い年月を生き抜いてきた大樹のパワーに満ちあふれている。また腰をかけている石を通じて、大地のパワーをも伝わってくるような不思議な感覚に包みこまれた。
「……ここにいると… まるで妖精にでもなったみたいです…」
「妖精?」
「はい… 立体機動装置がなくっても自由に飛べそう…」
「お前はもう… 飛んでるようなもんだがな」
ミケの言葉にマヤは目を開けた。
「ん?」
「お前は誰よりも装置に頼らず飛んでるさ」
「あはっ、何を言ってるんですか。装置がなかったら飛べません」
「まぁ… そうだがな。でもお前は、ガスを消費しないだろ?」
ミケは壁外調査で班員が皆ガスを使いきったときに、マヤのガスがまだ半分以上残っていたことを思い出していた。
「どうやってる?」
「うーん…」
マヤは頭上の葉むらを見上げ、しばし考える。葉と葉の隙間からキラキラと陽射しがこぼれる。
「よくわからないけど… 風に乗るようにしています」
「ほう?」
「……何を言ってるかわからないですよね。イメージの話なんですけど…」
マヤはミケの顔を、
「訓練兵になって立体機動装置で初めて飛んだとき違和感があったんです。ずっとそれが何かわからなかったけど…」
正面から見ながら。
「ある日、唐突にわかりました。立体機動装置は空気を切り裂いて飛んでるんです… 無理やりに」
こもれびを受けて穏やかに微笑んだ。
「それじゃ空気だって… 風だって嫌でしょ?」
ミケはどう答えたらいいかわからずに、ただ目を見開いた。
「……だから空気にお願いして… 風に乗せてもらうんです」