第12章 心づく
マヤは、アルテミスに声をかけた。
「あと少しみたいよ、アルテミス」
ヒン!
アルテミスは短くひと声で答えると、力強い足並みでなだらかな丘陵地を駆け上がった。
大きな木がどんどん近づいてくる。近くになればなるほど、その木の立派さに息をのむ。
先に着いたミケが、ヘラクレスからおりて木を見上げている。
マヤもアルテミスからおりてミケのかたわらへ立った。
「……うわぁ…」
その木は太い幹から無数の枝が、まるで手を伸ばすかのように横へ横へと広がっていた。枝は幾本にも分かれ、葉を青々と茂らせ、網目のようにつながっている。
マヤの目の高さの幹には、小さな子供ならすっぽりと入ってしまえそうな大きな “うろ” があった。
そのうろから下に目をやると、大地に根を張っている様子がよくわかる。
「恐らく… 樹齢何千年にもなる大楠だ」
つぶやくミケの声には、畏敬の念があふれていた。
「……ずっと… ここに立っているのね」
マヤも感嘆の声を漏らす。
大楠は太古の昔から、この地に力強く根を張り、巨大な幹を天に伸ばし、四方八方に枝を広げ、無数の緑の葉を茂らせてきた。
楠の下には座るのにちょうど良い丸い石が、幾つか転がっている。
「昼メシにしようか」
ミケはサドルバッグから包みを取り出すと、手近な石に腰かけた。
「はぁい」
マヤはミケの隣の石に、ちょこんと座った。
ガサゴソと紙の包みをひらくと、サンドイッチが姿を現した。
「美味しそう!」
マヤは思わず手を叩く。
「ほら」
ミケはハムを挟んだサンドイッチを、マヤに手渡した。
「ありがとうございます… いただきます!」
パクッとサンドイッチを食べたマヤは、目を輝かす。
「分隊長!」
「どうした」
「美味しいです…! パンがやわらかいし、ハムなんて何か月も食べてません…!」
「兵団のパンは石みたいだからな」
「ほんと! 毎日あごが疲れてますよ…」
「あはは」
大きな楠の下で、二人の笑い声が響いた。