第12章 心づく
マヤはミケに指示された、街の西の端に到着した。
アルテミスをつなぐのにちょうど良いコマツナギが、青々と自生している。
コマツナギは道端などに群生する背の低い木だ。丸っこい形の葉っぱが愛らしく、初夏には桃色の花が咲く。
コマツナギ… 駒つなぎの名の由来は、茎が丈夫で馬をつなげるかららしい。
馬をつなげる上に、その葉は馬の好物でもある。
アルテミスもコマツナギの葉が好きであり、早速むしゃむしゃと食み始めた。
「ふふ、良かったね! アルテミス」
マヤが声をかけると、アルテミスもブブブと鼻を鳴らした。
空を見上げると、よく晴れて白い雲がぽかりぽかりと浮いている。
……どこに行くのかな? お出かけ日和で良かったぁ。
マヤが飽くことなく空を見上げていると、蹄の音がしてすぐにミケが現れた。
「待たせたな」
「いえ、全然」
マヤはアルテミスにまたがった。
「ここから40分ほど西へ走る」
ミケが指さした方向に目をやりながら、マヤは少し不安そうに返事をした。
「はい…」
「そこに着いたら昼メシだ。……調達してきた」
ミケは笑いながら、鞍につけた皮のサドルバッグを軽く叩いてみせた。
「はい!」
「……メシと聞いた途端に元気になったな」
「そんなことありません!」
「あはは」
「もう…!」
二人は笑い合ったあと、出発した。
先を行くヘラクレスを、アルテミスが追う。
栗毛のアルテミスの四肢は白いが、鹿毛のヘラクレスの肢は黒い。
マヤは前をかけあしで飛ぶように地面を蹴る、ヘラクレスの黒い後ろ肢を見ながら思う。
……とてもリズミカルで… 楽しそう。ヘラクレスは分隊長と走るのが大好きなんだわ。
アルテミスに顔を向けると、その可愛らしい栗色の耳がピンと立っていた。
……ふふ、アルテミスもまだまだ余裕ね!
前方に小さな村が見えてきた。
その村が目印なのか、ミケはヘラクレスの左の手綱を真横に引いた。するとヘラクレスは大きく左に曲がり、さらに速度を上げる。
アルテミスも距離を保って追走する。
しばらく走ると小高い丘が見えてきた。
ミケはまっすぐ、その丘に向かっている。
マヤは丘の上に、枝を広げる一本の大きな木を見つけた。
……あの木のところへ行くのね。