第12章 心づく
俺は先ほどから、執務室の窓際に立って外を見ている。
もうすぐオルオとペトラが執務を手伝いに来るはずだ。
外なんか別に見たくもねぇ、オルオとペトラが来たらスムーズに処理ができるように書類を分類しておきたいのに身体が窓際から離れない。
一時間ほど前、ミケが私服で厩舎の方に行くのを見かけた。
途端に昨日の食堂で、チラチラとミケの顔を見上げていたマヤの顔が目に浮かぶ。
……チッ…。
それから俺は執務室に来て、窓際から一歩も動けずにいる。
……馬鹿馬鹿しい。一体何が起こるっていうんだ。
頭ではわかっているが、足は根が生えてしまったかのように微動だにしないし、気持ちは焦っている。
何に焦っているのだろうか。
自分でもよくわからないが、知らなくてはいけないと本能のようなものがささやいている。
……俺の勘だ。
執務室の窓からは、兵団の正門がよく見える。
ここから見張っていれば、出入りする者を逃すことはない。
……誰を…?
その答えは知っていたが、頭の中で形作るのを拒否した。
一人の女の動向が気になって窓から離れられないなんて、そんな情けないことを認める訳にはいかない。
リヴァイが己の気持ちの揺れに戸惑い顔をしかめていると、それは聞こえてきた。
かすかに蹄の音がしたかと思うと、それはあっという間に眼下を過ぎ、正門から出ていった。
アルテミスを駆るマヤの目は、まっすぐに前を向いていた。
普段は後ろで一つに結っている髪が、今日は自由になびいていた。
濃い茶色の長い髪が陽を浴びてキラキラと輝き、風を受けて揺れていた。
………!
リヴァイの胸が、ドクンと跳ねる。
認めたくはないが、マヤが通るのを待っていた。
待って待って… やっと現れたマヤは一瞬で通り過ぎてしまったが、その姿は美しくリヴァイの目に焼きついてしまった。
あの風になびく髪をかき抱きたい、オリオンを駆って今すぐにでも追いかけたい強い想いに衝き動かされる。
リヴァイは窓枠に添えた手を、ぐっと握りしめた。