第12章 心づく
その夜、約束どおりにペトラはマヤの部屋に遊びにきた。
見るからに浮かれているペトラは、定位置に腰かける。
「マヤ! いや… マヤ大先輩!」
「ん? 何?」
急に大先輩だなんて言い出すペトラに、少々不安になる。
「やだ~ とぼけちゃって! ほら執務の補佐の大先輩じゃん」
「あぁぁ…」
「ねぇ! 何をやればいいの?」
無邪気な顔で訊いてくるペトラに、マヤはおかしくなってきた。
「何をやればいいって執務に決まってるでしょ」
「それはわかってるわよ。他にえっと、うーん… そうだっ、肩を揉んであげたりするの?」
「しないけど…」
「え~ じゃあ執務をしている間、何をしゃべったらいいの?」
「しゃべらないよ…」
肩を揉まないしゃべらないと聞いて、なんだかガックリと肩を落としているペトラにマヤは優しく声をかけた。
「ペトラ、お仕事のお手伝いなんだから別に面白くないよ。ただ黙って書類の山を片づける! それだけよ」
「なぁーんだ… でもあれでしょ? 休憩のときは色々おしゃべりするんでしょ?」
「……それはそうだけど」
「いつも何をしゃべってるの?」
「うーん…」
マヤは思い出そうとするが、特に大したことは何も話していないことに気づく。
「……別に」
「別にって!」
「だって本当に大したことは何も…。お茶を淹れて、何かひとことふたこと話して…」
「それじゃわからないよ」
ペトラが頬をふくらます。
「だって本当にそうなんだもの」
「じゃあ今日は? 今日のことは覚えてるでしょ?」
「うん。えっとね… お天気の話だった」
「お天気?」
「うん。今日はよく晴れて段々と夏が近づいてきたって感じですねって言ったら、兵長もそうだなって」
「……それで?」
「それだけだけど?」
「………」
ペトラは黙ってしまった。
「……マヤ」
「うん?」
「何が面白いの?」
「うん、何も面白くないね」
マヤは確かに面白くないなと思って、白い歯を見せた。