第12章 心づく
……私が困っていたなんて兵長は知らないんだから… 助けてくれたとかそんな訳ないじゃない。
あまりにもタイミングが良かったから勘違いしちゃった。
兵長はただ単に執務が溜まっていたから、ペトラに手伝いを頼んだんだわ。
それを… さも私のためにありがとう… みたいに頭を下げてしまって…。
マヤの脳裏には冷たく視線を外したリヴァイの顔が浮かんでくる。
……なんだ こいつって思われちゃったかな…。
マヤがうじうじと悩んでいると、皆が立ち上がる気配がした。
食事を終えたリヴァイ班の面々は、口々に何かつぶやいている。
「ごちそうさまでした!」「ふ~ 食った食った!」「お先っす」
その中から、ご機嫌なペトラの声が飛んできた。
「マヤ! あとで部屋に行っていい?」
「いいよ」
「じゃあ、あとでね!」
リヴァイ班が立ち去ったあとのテーブルは急に寂しくなった。
「ペトラのやつ、リヴァイが好きなのか?」
「へぇ?」
ミケの唐突な質問に、マヤは変な声が出てしまった。
「今のどう見ても、リヴァイが好きなんだろう?」
マヤは返事に困ったが、確かにペトラの態度は一目瞭然であるし、こう答えた。
「えっと… ファンなんです。結構女子は、エルヴィン団長かリヴァイ兵長かでキャーキャー騒いでるんです」
「お前はどっちなんだ?」
「私はどっちでもありません。でも昔、どっちでもないって言ってもみんなに許してもらえなくて、無理やりエルヴィン団長のファンにさせられたことがあるんですよ」
マヤは遠い目をした。
「……懐かしいな」
ミケはマヤの声の様子から、その “みんな” が今はここにいないことを悟った。
「そうか…。ところでそのキャーキャー騒ぐ対象に俺は入ってないのか」
「えっ」
マヤが思わず隣のミケの顔を見ると、砂色の前髪に隠れている目が悪戯っぽく笑っていた。
「分隊長の場合、あの癖が悪いんです!」
「嗅ぐことか?」
「ええ。あれさえなければ、きっとキャーキャー言われてます」
「ふむ…。では嗅ぐのをやめてみるか」
「えっ! やめられるんですか?」
「……無理だな」
「……そうでしょ、そうだと思いました」
ミケとマヤは、あははと声を出して笑い合った。