第12章 心づく
リヴァイに執務を手伝えと命じられたペトラは一瞬呆気にとられていたが、すぐに顔を輝かせた。
「はい!」
……兵長が執務を手伝えって言った!
ペトラは嬉しくて叫び出したい気分になった。
実は内心、ミケ分隊長の執務の補佐をしているマヤをうらやましく思っていた。
もちろんミケ分隊長の執務の補佐をしたい訳ではない。
リヴァイ兵長の執務の補佐をしてみたくてたまらなかった。
執務室に兵長と二人きり…、想像するだけでペトラの胸は高鳴る。
この胸の鼓動が隣にいる兵長に聞こえてしまうのではないか…。
そう心配になってそっと胸を押さえたとき、右隣から声が飛んだ。
「兵長、俺も手伝います」
……え?
ペトラは、声の主のオルオを睨みつけた。
……兵長… 断ってください!
ペトラの祈りも虚しく、リヴァイは静かに受け入れた。
「すまないな、オルオ」
「兵長! 私ひとりでも立派にお手伝いできますよ?」
ペトラは思い切ってリヴァイに進言したが、
「人数が多い方が早く終わるじゃねぇか。折角の休みなんだしな」
と、かわされてしまい落胆した。
「兵長すみません。俺、用事が…」「俺も…」
エルドとグンタが申し訳なさそうにしている。
「調整日なんだ。気にするな」
リヴァイは二人に声をかけながら、そっとマヤの様子をうかがった。
マヤは明らかに、ほっと胸を撫で下ろしていた。
マヤは降って湧いた兵長のひとことで、窮地を脱したことを知った。
もう何かしらの嘘をつかないといけない状況に追いこまれていたのに、兵長のお陰でペトラは街のケーキ屋のことなど忘れ去ったようだ。
おまけに兵長の執務の補佐をできるとあって頬を赤らめて喜んでいる。
……良かった…。
嘘をつかなくて済んだし、ペトラは喜んでいるし。マヤは心から今の状況を喜んだ。
ふと視線を感じ顔を上げると、リヴァイ兵長がじっとこちらを見ている。
マヤは兵長のお陰で助かったと重々承知していたので、リヴァイに頭を下げて微笑んだ。
しかしリヴァイはなんの反応もなく、ふいっと視線を外した。
それを見たマヤは、自分で自分が恥ずかしくなった。
……兵長が助け舟を出してくれた気でいたけど、とんだ思い違いなんだ。
馬鹿だな… 私。