第12章 心づく
マヤは生来、嘘をつくのが苦手だ。
……どうしよう…!
チラッとミケの方を見るが、素知らぬ顔でパンを噛んでいる。
……分隊長! 私はどうしたら…!
焦るマヤに、ペトラが追い討ちをかけてきた。
「ねぇ! マヤってば!」
……嘘はつきたくないが、分隊長に誰にも言わないと約束した。
マヤは覚悟を決めて何か適当な嘘をつくことにした。
「あっ あのね… ペトラ…」
そのとき、予想もしなかった人物の鋭い声が低く響いた。
「ペトラ、明日は執務を手伝え」
俺の班の皆と夕食を食べていたら、やたら図体のでけぇミケがのっそり入ってくるのが見えた。
その後ろにマヤが従っている。
………。
別に気にしている訳ではねぇが、なんとなく二人がどこに座るか目で追っていたらミケの野郎と目が合った。
その途端、こちらに向かってきやがる。
「ここ、いいか?」「あぁ」
俺の向かいに腰を下ろしたミケは、その隣にマヤを座らせた。
俺はチラッとマヤを見たが、マヤは俺にというよりはその場にいる全員に軽く頭を下げると、両手を合わせたあとに食べ始めた。
マヤは、全く顔を上げようとしない。
マヤの前の席… つまり俺の左横には誰も座っておらず、マヤが顔を上げれば必然的に俺しか目に入らない状態であるのに、俺など存在しないかのようにうつむいているマヤに苛立った。
しばらくすると俺の右隣に座っているペトラが、マヤに話しかけた。
明日の調整日に街のケーキ屋に行こうと誘っている。
……甘いものが好きだと言っていたから、喜ぶだろうな。
そう思っていたら、なんだか様子がおかしい。
非常に困った様子で口ごもり、チラチラとミケの顔色をうかがっている。
……なんだ? 何故ミケを見る?
一体どういう状況だ、これは…。
俺の右隣からキンキンと、マヤを追いつめる声がする。
顔を赤くして困っているマヤ。
どう見ても助けを求められているのに、涼しい顔をしてパンを食ってやがるミケ。
……マヤが困ってるだろうが!
気づくと俺は、ペトラに命令していた。
「ペトラ、明日は執務を手伝え」