第12章 心づく
「マヤ… 買い物以外にも連れていきたい場所があるから、馬で行く」
最寄りの街へは歩いて30分もかからないので、馬と聞いてマヤは少なからず驚いた。
「馬… ですか」
「あぁ」
それ以上何も言わないミケに、マヤは何も訊けなかった。
「では… よろしく頼む」
「わかりました」
「メシに行こうか」
ミケが立ち上がる。
「はい」
それを見てマヤも立ち上がった。
二人で執務室を出ようとしたとき、ミケが立ち止まる。
「マヤ」
振り返ったミケの表情は影になっていて、マヤからはよく見えなかった。
「すまないが… 明日のことは誰にも言わないでほしい」
「あっ はい、わかりました」
……そりゃそうよね。好きな人へのプレゼントを買いに行くんだもの。内緒にしなくちゃね。
マヤは内心そう思いながら、ミケ分隊長と秘密を共有したことに少しくすぐったいような気持ちを覚えた。
ミケとマヤは食堂に入るとカウンターで夕食を受け取り、トレイを持ちながら席を探した。
到着が少し遅かったので、見渡す限りほぼ満席だ。
棒立ちになっていたミケが、急に歩き出した。
マヤが黙ってついていった先は、リヴァイ班の面々が占領している席だった。
「ここ、いいか?」「あぁ」
ミケが短く尋ね、リヴァイがそれに答える。
ミケは空いていたリヴァイの正面に座り、その隣をマヤにうながした。
「「「「お疲れ様です」」」」
リヴァイ班の皆が、ミケ分隊長に挨拶をする。
そのあとしばらくは食事の音だけが聞こえていたが、ペトラの明るい声が場の雰囲気を変えた。
「ねぇ、マヤ!」
名前を呼ばれ、マヤは顔を上げる。
マヤから見て斜め向かいに座っている兵長の隣にいるペトラは、少し遠いからか声を張り上げた。
「街に新しくできたケーキ屋、ほら… 前に言ってたとこ!」
「う、うん」
「明日マヤも休みでしょ? 行こうよ」
「あっ… 明日はちょっと…」
口ごもるマヤに、ペトラは容赦なくたたみかける。
「ん? 明日… 調整日だよね?」
「うん…」
「何か用事でもあるの?」
「………」
マヤは返答に困ってしまった。