第12章 心づく
一週間ほど経ったある日、書類の整理を終えテーブルの上を片づけていたマヤは、ミケの声で手を止めた。
「マヤ」
「はい?」
「明日の調整日なんだが… 空いているか?」
「……はい。特に用事はないですけど?」
そう答え顔を上げると、ミケは口元に笑みを浮かべた。
「では… 買い物につきあってもらおうか」
「私が賭けに負けたときの…?」
「あぁ そうだ、かまわないだろう?」
「もちろんです。あれから毎日兵長はここに来るし、私の完全な負けですもの」
マヤは賭けに負けたというのに、どことなく嬉しそうにしている。
「何を買いに行くんですか?」
好奇心でマヤが訊くと、ミケは真剣な顔をした。
「実は… 好きな女がいる。彼女に何か贈ろうと思うのだが、何がいいかわからん。マヤ、見繕ってくれないか」
「………!」
ミケの突然の “好きな女がいる発言” に、咄嗟になんの反応もできなかった。
「……迷惑だったらいいんだ」
あまりの驚きで固まっているマヤに、ミケは小さな声でつけ加えた。
その声を聞き、我に返った。
「い、いえ! 迷惑だなんてそんな! ごめんなさい、急な話だったから驚いてしまって…」
「はは、驚いたか」
「はい、かなり…」
マヤは正直にうなずいたが、失礼なことを言ったのではないかと焦り、急いで言葉を重ねた。
「あっ その、分隊長に好きな人がいたなんて全然知らなかったので…」
「まぁ そうだろうな」
ミケが愉快そうに笑い出したので、マヤもつられて笑った。
「ほんと、想像もしていませんでしたよ」
その発言を受けて、ミケが訊く。
「誰なら想像できた? リヴァイか?」
「え?」
リヴァイのしかめ面が、マヤの脳裏に浮かぶ。
「あはっ やめてください。兵長なんて、もっと想像できませんから」
「はは、そうか」
笑っているミケを見て、マヤはその好きな人って誰なんですか?と訊こうかと思ったが、出すぎた真似をしてはいけないと考え直し口をつぐんだ。