【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第23章 My Love Blooms for You
恐らくリヴァイが眠っていたのは1時間もなかっただろう。
目を覚ますと、まだ月は空に浮かび、桜は静かに月光に照らされていた。
「・・・?」
ふと左手を見ると、いつの間に滑り込んできたのか数枚の花弁が収まっている。
しばらくそれを見つめてから顔を上げた瞬間、リヴァイの瞳が大きく開いた。
見上げれば薄桃色の花びらが舞う空。
足元は薄桃色の花びらが敷き詰められた絨毯。
かつては壁外だった山桜。
「───綺麗・・・だ」
それは自然と口からついて出た言葉だった。
この世界にサクラはいないのに。
“無”に同じと思っていたのに。
「サクラ・・・この世界はとても美しいな」
漆黒の空に浮かぶ、白銀の月。
月光を受けて春の闇に浮かび上がる桜。
まるでサクラと一緒に見ている景色であるかのように、美しいと思える。
桜の花弁を握る左手がとても温かい。
まるで彼女の手が重なっているようだ。
ジッと左手の中の花弁を見つめていると、本当にその手の重さまで感じられるような気がした。
「そうか・・・お前はまだこの世界を愛しているのか」
そうであるならば、俺が命を懸ける理由としては十分。
「不思議だな・・・お前に愛されているものだと分かった途端・・・この世界がとても綺麗なものに思える」
これを守るために俺はこの先、同じ人間を騙し、殺すこともあるだろう。
もしかしたら壁内人類史上、最も非情な兵士となるかもしれない。
「それでもお前は俺を愛してくれるか・・・?」
すると、一枚の花弁がリヴァイの頬を撫でた。
“当然です”と言いたげに。
「そうか・・・」
サクラの声が聞こえたわけでもないのに、そう確信できるほどリヴァイを包む光景は美しくて優しい。
それだけでこの先に待ち受ける、どのような運命も享受する覚悟が決められるようだった。