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【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati

第23章  My Love Blooms for You




ウォール・マリア東部の山にしか咲かないという、とても珍しい花。
咲いてから散るまでが短く、幻の花と呼ばれている。


“私には東洋人の血が流れています。彼らはその花を何よりも大切に愛でていた、と父が言っていました”


ただ咲いては散ってを永遠に繰り返すその花が、東洋人にそこまで愛される理由とは───


“その花が咲く木の前に立つと、空も、風も、大地も、すべてその色に染まるんです”


息をのむほどの美しさと、涙が出るほどの儚さゆえか。


「はっ・・・はっ・・・」


女に言われた通り、杉の木の脇から獣道に入って数十分。
滅多なことでは呼吸を乱さないリヴァイだが、険しい傾斜と不安定な足元、さらに馬を引きながらの山道に息は切れ、その額には汗が滲んでいた。

春とは言え、夜は気温が下がる。
寒いとまではいかなくとも、汗をぬぐった肌がひんやりと冷たい。


辺りはもう真っ暗だ、たとえ花が咲いていたとしても良く見えないかもしれない。
やはり一晩おいてから出発した方が良かったか、そう思って顔を上げた時だった。


「・・・!」


微かだが、何かが頬に触れる感覚。
それが花弁だということに気づくまで数秒もかからなかった。

それまで木々の枝で塞がれていた視界が一気に開け、何本もの筋となって差し込む白い月光が目に飛び込んでくる。
サラサラと枝が揺れる音、幾枚もの花弁が舞い散る光景に。


「サクラ・・・」


そこにいるはずの無い人の名が零れたのは、もはや意識的ではなかった。


“ここには亡き家族との思い出があるんだろ?”


老樹の枝に薄桃色の雲がかかっているかのように群衆する可憐な花弁。
その一枚が剥がれては風にのり、静かな夜の帳へと消えていく。

白い月明かりを受けて、静かに、厳かに・・・


“お前の大切な記憶を、俺も見てみたかった”


その場所は彼にとって大切な記憶を全て残していた。








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