【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第23章 My Love Blooms for You
───桜が咲き誇る時間はとても短い。
でも、その瞬く間の美しさは私達の心に深くとどまります。
彼女はまさにその桜のような人だった。
薔薇のように強い香りと艶やかな深紅で人々を虜にするでもなく。
白に溶け込みそうなほど淡い薄桃色の花弁は、空も、風も、大地もその色に染めるのに、人々がそれに気づく頃には命が尽きようとする花。
だが、その瞬く間の美しさはきっと、薔薇の美しさをも凌ぐだろう。
リヴァイが彼女を愛しいと気づいた頃には、散る桜のように二人の時間が刻一刻と終わりに近づいていた。
そのわずかな時でも、リヴァイの世界を変えるには十分だった。
星が輝く空、爽やかな風、四季折々の花が咲く大地。
彼女と一緒に見た景色はどれも、リヴァイの瞳にはとても美しいものとして映っていた。
そして何よりも忘れられない光景がある。
「オイ・・・また季節が一周しちまったぞ」
足元には、小指の先ほどの白い花を咲かせた野草。
見上げれば、木の枝にはふっくらとした蕾がピンク色をのぞかせていた。
彼女ならこの暖かな日差しを受けて、なんと言っただろうか。
芽吹きの季節と喜んだだろうか。
だが、今のリヴァイの瞳には、どうしてもこの世界が美しいものには思えない。
「あと何周すりゃお前に会えるんだろうな」
この世界でやり残していることはまだ多い。
少なくとも、“猿の巨人”を殺すまでは絶対にこの心臓を止めないと誓った。
“壁の中の人類”のために鬼神となった自分が、それでも心のどこかで迷いが生じているのはこの季節のせいか。
「なぁ、サクラ・・・・・・」
彼女と見たあの景色を一人で見る気には、到底なれなかったのに・・・
全てが薄桃色に染まるあの世界。
そこへとリヴァイの背中を押したのは、変わらぬ彼女への想いだった───