【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第23章 My Love Blooms for You
ハンジも空を見上げると、僅かに新緑の香りがした。
どうやら気づかないうちに春がやってきていたようだ。
「・・・あの子が一番好きだった季節だね」
眼帯を外し、見えないはずの左目でリヴァイと同じ先を見つめる。
「私としたことが・・・すっかり忘れていたよ・・・いや、思い出すことを躊躇っていたのかな」
春の風がハンジの顔を撫でる。
それはまるで、誰かの手が潰れた左目を優しくいたわっているかのよう。
ハンジは一回だけ瞬きをすると、眼帯を付け直してリヴァイの方を向いた。
「では、調査兵団団長としてリヴァイを特別作戦班に任命する。目的はある生態と地質の調査だ」
それはかつて、前団長がリヴァイに命じた指令と同じ。
違うのは、その目的地がもう“壁外”ではないということ。
「行ってきなよ、リヴァイ」
ハンジは左胸に拳を当て、優しい隻眼を揺らす。
「その場所にしか咲かない花の所へ───」
特別な花。
命短い花。
思い出した・・・
ハンジは友人としてずっと、リヴァイの笑顔を見たいと思っていたことを。
涙を受け止めたいと思っていたことを。
そして、ずっと孤独で頑なだったリヴァイの世界を、僅かな時間で色とりどりの美しい世界に変えた女性がいたことを。
「・・・咲いているといいな、リヴァイ」
リヴァイは小さく表情を綻ばせると、出立はまだかと鼻を鳴らしている馬の方へ顔を向けた。
それはかつての愛馬ではなく、栗色の3歳馬。
「ああ、咲いていることを願う」
否。
そうでなければ、困る。
「俺の大切な記憶がそこにあるからな」
2年前、友人に反対されても二人で壁外調査へ行くと言って聞かなかったリヴァイ。
その理由はただ一つ。
“サクラの大切な記憶がそこにあるらしい”
“俺も見てみたい、それだけだ”
愛した人の大切な記憶は今、自分の大切な記憶に。
この世界で彼女が生きていたという証が一つずつ風化していく中、これだけは絶対に消えないものだ。
自分の命がある限り───