【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第23章 My Love Blooms for You
「ちっ・・・」
エルヴィンと同じ空気を纏うようになったハンジを相手に、もはや勝ち目はない。
リヴァイは小さく溜息を漏らすと、ほんの数週間まで灰色の厚雲で覆われていた空を見上げた。
「季節がまた一周した」
「季節・・・?」
よほどの事情があるのかと思えば、リヴァイの口から出たのはこれから戦争を仕掛ける人間とは思えない平和な言葉。
エレンは眉をひそめながら兵士長の顔を見た。
「・・・時間がねぇ」
どんなに美しくても。
どんなに愛されていても。
「・・・そこにしか咲かねぇ特別な花なんだよ」
───命は必ず、宿命の時を迎えれば尽きる。
「一週間しか・・・時間がねぇんだ」
その瞬間、ハンジの表情が変わった。
エレンは「花?」と戸惑ったまま。
「もうこれが“最後”かもしれねぇ」
あの景色を見て“美しい”と思える心を持つことができるのは。
そしてもし、あの景色さえ“美しい”と思えなくなってしまったら・・・
それは“死”も同然。
「エレン、いつかお前に言ったよな」
巨人の力を得てしまった彼に残されている時間は決して長くない。
“進撃の巨人”のエレンの寿命が尽きる前に、調査兵団を母体とした壁の中の兵士は、海の向こうの強大な軍事力を相手に総攻撃を仕掛けなければならない。
その時はリヴァイも、最前線で人間を殺して飛び回る鬼神となるだろう。
努めなくても、それは容易に想像できる。
おびただしい血が流れつく先に折り重なる死体の山。
その上に立つリヴァイはもう、美しいものを美しいと思える心さえ失っているだろう。
「悔いを残さねぇ選択をしろ、と」
“人間”であるうちに、目に焼き付けておかなければ。
美しいものを美しいと思えなくなっても、何が美しいものだったかを心に刻み込んでおくために。
「だからハンジ・・・お前の許可を得られなくても、その結果がどうなろうとも、行かせてもらう」
それはかつて、リヴァイがエルヴィンに向かって言いきった言葉と同じだった。
その事を知るハンジにどうして、リヴァイの願いを無視することができようか。