【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第22章 Let Your Heart Be Light
亡き愛する人との思い出が詰まった部屋に一人で帰ることほど残酷なものはない。
壁外遠征から帰ってきてすぐ、エルヴィンが珍しく“飲みに行くか”と誘ってきたが断った。
酒を飲む気分でもないし、誰かと話す気分でもない。
いつもなら死体置き場に行ったあとは風呂場へ直行するのだが、今日はそのまま部屋に戻った。
この身体に染みついた死臭の中には、サクラの最期の匂いも含まれている。
キィ―・・・
重たいドアを開けても、“兵長、おかえりなさい”と出迎えてくれる者はもういない。
それなのに部屋は出た時のままということが、リヴァイに耐えられようもない苦痛を与えた。
「・・・・・・・・・・・・」
テーブルの上には、出発の日の朝に読み終えたという恋愛小説。
それを手に取ったのはただ、この部屋でサクラが最後に触れたものだったからだ。
死臭が染みついた身体でイスに座り、ページをめくってみる。
それはやはり、吐き気すら覚える非現実的なラブストーリーを集めた短編集で、何故人気があるのか理解に苦しんだ。
パラパラと飛ばし読みをし、最後の章まできたところでリヴァイの瞳が大きく開く。
それは自分を愛する男性に、ある条件を突きつけた女性の話だった。
「サクラが言っていたのはこれか・・・」
この話を読み終えた時、サクラはつらそうに心臓を抑えていた。
リヴァイは引き寄せられるように、文字の羅列を追いかけていった。