【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第5章 Eye of the Silver Wolf
銀白の、人類を寄せ付けない極寒の世界。
「ロゼ、しっかりして!」
ロゼの体を支えながら、前を歩く狼に置いていかれないように雪を踏みしめる。
呼吸の一つ一つが、肺を底まで凍らせていくようだ。
狼は、自分たちと一定の距離を保ったまま、少し歩いては伺うようにこちらを振り向く。
この子は、私達を案内している。
そう、確信した。
しばらく進んで立ち止まると、何度か遠吠え。
するとそれに応じるように、仲間の遠吠えが聞こえる。
これで位置を確認しているのか。
何度か同じことを繰り返し、1時間ほど歩いたところでサクラの目に兵舎の明かりが飛び込んできた。
「あ・・・!!」
安堵で、涙が溢れてくる。
ロゼの息遣いも感じる。良かった、死んでない。
狼はこちらを見て僅かに目を細めた。
「・・・・・・・・・」
サクラは外套を脱ぎ、雪に敷いてロゼを寝かせる。
そして、ジャケットも脱いで左腕の袖をまくった。
「狼・・・あなたのおかげよ」
素の腕を、狼の口元に出す。
銀色の毛並みが風で揺れた。
「私があなたのためにしてあげられることといったら、新鮮な肉を食べさせてあげることくらい。でも、どうかこの腕一本だけにして」
狼は静かにサクラを見つめている。
その瞳は深く、意思を推し量ることができない。
どれくらいそうしていただろう。
狼は腰を落としているサクラにゆっくりと近づくと、キスをするように首筋を舐めた。
“お前に血を流させるつもりはない・・・生きろ”
そう囁いているように思えた。
「ありがとう・・・」
サクラは美しい毛を撫でようとした。
しかし、野生の狼はそれを許さない。
人間と自分は、生きる世界が違う。
気高さゆえに、馴れ合いを拒む。
そしてサクラとロゼを一瞥し、真っ白な山深くへと消えて行った。