【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第19章 Dear My Father... ※
「兵長」
ペトラの声が、辛い記憶に絡め取られそうになっていたリヴァイを呼び戻した。
顔を上げると、そこにはサクラとは違う笑顔。
「紅茶、冷めますよ」
「ああ・・・悪い」
ティーカップへ手を出しかけると、ひとまわり小さな手がそれを制止した。
不思議に思ってペトラの方に目を向けると、深い尊敬と慈しみが混じった視線と交わる。
「兵長はお疲れの時、紅茶に角砂糖を一つ落として飲まれますよね」
「ああ、そうだが・・・?」
ティーカップに敷かれているソーサーには、四角く硬められた砂糖。
それとは別に、ペトラはスキットルとミルクポットを持ってきていた。
「明日は壁外調査だ、酒は飲まねぇ」
リヴァイがスキットルを見て眉をしかめると、楽しそうに微笑みながら首を横に振る。
「紅茶に少しだけブランデーを入れるだけです。アルコールは残りません」
「何のために」
「ちょっとした余興です・・・」
ペトラはティーカップの上にスプーンを置くと、それに角砂糖をちょこんと乗せる。
そして、紅茶に直接入らないよう、慎重に上から砂糖にブランデーをかけて染み込ませていった。
「明日の壁外調査のため・・・少しでも気持ちが安まるように」
優しく微笑み、すっかりとブランデー色に染まった角砂糖にマッチで火をつける。
ジジジと燃える音。
スプーンの上に、青い炎が咲く。
ブランデーと紅茶の芳ばしい香りが部屋中に広がった。
「ほう・・・」
火を灯す角砂糖は、まるでキャンドルのよう。
ペトラは少しずつ小さくなるのを見計らい、炎が消える寸前でスプーンを琥珀色のお茶の中へ落とした。
「・・・見事なものだな」
「ありがとうございます」
温めたミルクをゆっくりと注ぎ、優しくかき混ぜる。
ほのかにブランデーが香る、ミルクティーが出来上がった。
「どうぞ召し上がってください」
促されてカップを口元に持って行くと、舌の上に広がる優しい甘さ。
「・・・・・・・・・・・・」
窓から吹き込む夜風が、リヴァイの黒髪とペトラの亜麻色の髪を揺らした。
心地良さすら感じる沈黙が流れる。