【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第19章 Dear My Father... ※
壁外調査を翌日に控えた夜。
リヴァイの部屋に、ドアをノックする音が響いた。
「入れ」
この叩き方はペトラに違いない。
ちらりと時計を見ると、10時半を回っている。
今夜は、いつになく紅茶を持ってくる時間が遅いな。
口には出さないものの、ふとそう思った。
「失礼します」
ドアが開くとともに漂う、紅茶の優しい香り。
窓際に椅子を寄せ、枠に頬杖をつきながら夜空を見上げていたリヴァイは、そっと目を閉じた。
「お茶をお持ちしました」
「ああ・・・」
珍しく兵長が微睡んでいる。
ペトラは一瞬、歩み寄るのを躊躇した。
いつも緊張感を漂わせているリヴァイが無防備な姿を見せることなど滅多にない。
「・・・エレンは寝たのか?」
「あ、はい」
何だ、微睡んでいると思ったのは勘違いだったか。
煉瓦が剥き出しになっている窓枠に、ティーカップをそっと置く。
「あの子にとっては明日が初めての壁外調査で・・・随分と興奮していたようです」
リヴァイにお茶を持ってくるのが遅くなったのも、ずっとエレンの話し相手をしていたから。
兵士とはいっても、彼はまだ15歳なのだ。
「そうか・・・」
赤みがかった琥珀色の紅茶を見つめ、リヴァイはそっと瞳を揺らした。
「・・・膝枕をしてやれば、さっさと寝たかもしれんな」
「兵長がエレンにですか?」
「・・・俺がしてどうする。お前だ」
驚いた顔をしていたペトラは、“ですよね”と明るく笑った。
リヴァイがエレンに膝枕などしたら、あの可哀想な少年は朝まで一睡もできないかもしれない。
「でも、兵長の口から膝枕という言葉が出てくるとは思いませんでした」
「・・・・・・・・・・・・」
リヴァイは黙ると、星が輝く夜空を見上げる。
“ 兵長もやっぱり男の子なんですね ”
温かい太ももに、柔らかい手。
“ 男の子って膝枕をしてあげると安心するようで、すぐ寝ちゃってましたから ”
今と同じような満天の星空を背に、サクラが微笑む。
永遠という言葉は幻だった。
絶対という言葉も存在しなかった。
でも・・・
それを願っていた。
絶望だけが残った今でも、心のどこかで奇跡が起こるのを願っている。
それが愚かなことだしても・・・