【リヴァイ】Calmi Cuori Appassionati
第19章 Dear My Father... ※
「ペトラ、サクラ」
抑揚の無い声が、背後から聞こえてくる。
それは二人にとって、とても大切な人の声。
「リヴァイ兵長」
ペトラは立ち上がると、胸に拳を当てて敬礼をした。
サクラは手が汚れていたため、しゃがんだまま頭を下げる。
リヴァイは二人を交互に見て軽く頷くと、サクラの隣に屈んで花壇を覗き込んだ。
「・・・この赤いの、無事に咲いたじゃねぇか」
小さな花びらをつけている花を、指先でちょんちょんと触れる。
「はい。兵長が栄養をたくさんあげてくれたおかげです」
「ああ、あの腐った土のことか」
「堆肥ですよ。ちゃんと元気に育ってます」
「そうか・・・」
リヴァイが花に興味を示すなんて、ペトラには信じられないことだった。
いや、それもきっとサクラが大事に育てているからなんだろう。
「水はいいのか?」
「もうじゅうぶん与えましたから、大丈夫です」
そんな何気ない会話でも、自分の入る余地はどこにもない。
切ない気持ちになりながら、ペトラは二人に向かって無理に笑顔を作ってみせた。
「それでは私はこれで」
「え、ペトラ、もう行っちゃうの?」
「うん。サクラの姿を見かけて寄っただけだから。リヴァイ兵長、失礼します」
するとリヴァイは屈んだまま、ペトラを見上げて口を開いた。
「ああ・・・またあとでな」
その言葉に、ペトラの瞳が丸くなる。
“またあとで”
それが、夕食後のことを指していることは明らかだった。
自分がお茶を持っていく時間は、リヴァイの日常の一部となっていたのか。
その時間だけはサクラじゃなく、自分を待っていてくれる。
「はい・・・“またあとで”」
ずっと、自分が勝手にしていることだとばかり思っていた。
でもリヴァイもそれを心待ちにしてくれている。
それだけで、じゅうぶんだった。